「会社を廃業したくないけれど経営自体は休止したい」と考えている人は、会社を休眠状態にすることも検討しているのではないでしょうか。しかし、なかには経営不振で借金を抱えているケースもあるでしょう。
借金があっても、会社は休眠状態にできるのでしょうか。この記事では、借金のある会社の休眠や、休眠するかどうかの判断基準、休眠以外の選択肢を解説します。
会社の休眠とは?廃業やみなし解散との違い、メリット・デメリットを解説 | 千代田中央法律事務所
借金があっても会社を休眠にできる?

借金がある場合、会社は休眠状態にできるのでしょうか。休眠の可否やそのほかの選択肢について解説します。
休眠自体はできるが借金は帳消しにならない
手続き上、借金を抱えたまま会社を休眠させることは可能です。税務署や都道府県、市区町村の役場へ異動届出書を提出すれば、会社は事業活動を停止した休眠会社として扱われます。
しかし、休眠しても会社の法人格は存続するため、借金自体は帳消しになりません。
会社を休眠すれば事業収入がなくなるため、これはあくまで税務上の手続きに過ぎず、根本的な問題解決にはなりません。
返済能力がないと判断され、債権者からの請求が厳しくなったり、連帯保証人である経営者個人の資産への請求がはじまったりする可能性もあるのです。
借金があっても会社の休眠自体はできますが、借金に関してはかえって状況が悪化するケースもあるため、慎重に判断しなければなりません。
債務金額によっては廃業も検討する必要がある
会社の債務金額によっては、将来的な負担を考慮して休眠よりも廃業を検討する必要があるかもしれません。
たとえば、会社の持つ資産をすべて現金化すれば、借入金などの負債を全額返済できる資産超過の状態では、廃業も選択肢になります。
しかし、会社の資産を集めても借金を返済しきれないのであれば、清算による廃業はできず、法人破産を検討する必要があります。自社の財務状況を把握し、どの選択肢が最適なのか十分に検討しなければなりません。
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借金がある状態で会社を休眠させるメリット

借金がある状態で会社を休眠させるメリットは、以下の3つです。
メリットを詳しく解説します。
1. 廃業よりも低コストで手続きできる
休眠は、廃業よりも低コストで手続きができるため、負担を抑えられます。休眠手続きは、基本的に書類を税務署や役所に提出すれば完了するうえ、書類作成も自身でできます。
廃業や破産では、弁護士費用や司法書士への書類作成費用、裁判所へ納めるお金など、さまざまな費用が発生します。資金に余裕がない経営者にとっては、大きな負担になるでしょう。
ただし、コストがかからないのは休眠直後までです。休眠後は税金や登記費用がかかるため、長期的にはコストがかかってしまう点に注意しましょう。
2. 体制が整えば事業を再開できる
会社を休眠状態にしておけば、会社自体は消滅していないため、体制が整えば事業を再開できる可能性があります。体制が整ったタイミングで税務署に「事業再開の届出」を提出すれば、比較的簡単に会社の活動を再開できます。
建設業の許可や古物商の免許など、取得が難しい許認可を維持できる可能性がある点も、休眠状態にするメリットです。
一方、借金の返済が滞ってしまうと、なかなか事業再開は見込めません。まずは債務返済をどう進めていくかを優先的に考え、事業再開は債務を完済できてから考えていくようにしましょう。
3. 法人税や消費税がかからない
会社が休眠状態の場合、法人税や消費税は発生しません。会社が事業活動を停止すると、当然ながら売上や利益が発生しないためです。税負担が増えない点に加え、確定申告の手間が減るのもメリットといえるでしょう。
ただし、法人住民税の均等割については、会社の利益に関係なく法人がある限り、原則負担しなければなりません。
資本金などにもよりますが、最低でも年間約7万円の負担が発生します。毎年定期的にかかるため、休眠期間が長引くほどコストが発生し続ける点に注意が必要です。
借金がある状態で会社を休眠させるデメリット

借金のある状態の会社を休眠させるデメリットは、以下の4つです。
借金を伴う会社の休眠は、デメリットやリスクが大きいため、慎重な判断が求められます。デメリットを詳しく解説します。
1. 連帯保証債務は消滅しない
借金を抱えた会社を休眠しても、連帯保証人の債務は消えません。中小企業の融資では、経営者個人が連帯保証人となるのが一般的です。連帯保証人となると、債務のある会社が事業を停止した際に、自身に返済請求が来ます。
返済ができない場合は、財産が差し押さえられたり不動産の売却を迫られたりと、生活にも影響がおよびます。個人の生活を守りたいのであれば、休眠は選択肢から外すとよいでしょう。
2. 固定資産税や法人住民税均等割は課税される
会社の休眠手続きをすれば、法人税や消費税は基本的に課税されなくなります。しかし、すべての税金の支払いがなくなるわけではありません。
たとえば、固定資産税は会社のオフィスとなっている不動産が存在する限り、毎年かかります。また、法人住民税の均等割も、会社が消滅しない限り課される税金です。
どちらも滞納すれば延滞税が加算されます。それでも支払いを怠っていると、不動産や預金など、会社の財産が差し押さえ対象になるケースもあるでしょう。
継続的なコスト負担を避けるのであれば、法人格そのものを消滅させる廃業や破産を検討するとよいです。
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3. 役員登記を更新しないと罰則を受ける
会社を休眠していても、会社自体がなくなっているわけではないため、法律上の義務も継続します。とくに、役員の変更登記は見落としがちなため注意が必要です。
株式会社の取締役は、会社法で任期が選任後2年と定められており、非公開会社は定款で最長10年まで延長できます。
そのため、たとえ同じ人物が取締役を続ける場合でも、休眠中であっても任期が満了すれば、2週間以内に法務局へ役員変更の登記を申請しなければなりません。
手続きを怠ってしまうと、会社の代表者個人に対して、裁判所から100万円以下の過料が科されるおそれがあります。休眠したとしても役員の任期を管理し続け、登記の更新を忘れずに行うようにしましょう。
4. 12年間登記がないとみなし解散になる
役員変更登記をせずに会社を12年間放置してしまうと「みなし解散」という扱いになってしまいます。
みなし解散は、株式会社が最後の登記から12年間、登記申請を行わなかった場合に、法務局が「経営実態がない」と判断し、経営者の意思にかかわらず解散登記をしてしまうものです。
法務大臣による官報公告の後、対象企業には通知書が送付されます。ここで2ヶ月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出や登記申請をしなければ、自動的に解散となってしまいます。
法人格は解散しても債務は残るため、清算・破産手続きをしなければなりません。
会社を再開する意思があるなら、たとえ休眠中であっても、登記の更新など必要な手続きは必ず済ませるようにしましょう。
借金のある会社を休眠させるか判断する基準

借金のある会社を休眠するかどうかは、借金額やコストを踏まえて判断するのが重要です。借金のある会社を休眠する際の判断基準を解説します。
休眠が選択肢となるケース
借金を抱えた会社が休眠を選択するケースは、基本的に限られます。主なケースは以下の2つを満たす場合です。
- 連帯保証付きの借金がない
- 1〜2年以内に事業を再開する見込みがある
休眠はあくまで会社の存続・廃止を先送りするものであり、債務自体がなくなるわけではありません。休眠中であっても、引き続き債務返済に悩まされる可能性は否めません。
休眠中の維持コストを支払う余裕がある、債務が極端に少ない、といった理由があれば「法人格を維持するほうが合理的」といえるでしょう。
債務返済・事業再開の可能性どちらも明確な道筋が決まっているなら、休眠の選択肢も検討してみましょう。
破産などを検討すべきケース
経営者が連帯保証人になっているケースや、債務額が資産額よりも大きいケースでは、破産や廃業を検討するとよいです。また、事業を再開する見込みが今後ない場合も、休眠状態にすると逆に手間がかかる可能性があります。
休眠状態でも債務は消えません。しかし、破産・清算手続きをすれば、債務の負担がなくなり、再出発ができます。多額の借入金がなくなることで、精神的な不安や恐怖からも解放されるでしょう。
破産や廃業を検討する際は、弁護士に相談しながら進めましょう。破産・廃業手続きの専門家である弁護士とともに手続きを進めていけば、適切に会社の処理が完了します。
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借金のある会社を整理する休眠以外の選択肢

借金のある会社の経営を整理するには、休眠以外にもいくつかの選択肢があります。主な選択肢は以下のとおりです。
必要であれば、会社の運営を終了することも考える必要があります。自社の状況を把握し、適切な手続きで会社の整理をしましょう。
任意整理
任意整理は、裁判所などの公的機関を介さず、弁護士が代理人となって債権者と個別に話し合って、借金の減額や分割返済の合意を目指す方法です。
破産のように公になることがないため、内密に問題解決を図れる可能性があります。
たとえば、債権者が昔からの付き合いがある取引先数社のみで、関係性が良好な場合などに適した方法です。
弁護士を通じて将来利息のカットや返済期間の延長を交渉し、合意を得られれば会社を存続させながら返済を続けるといったケースが考えられます。
ただし、任意整理の交渉について、債権者や金融機関が応じる義務は一切ありません。借金について債権者の同意を得るのは難しいため、実現できるケースは限られるのが実情です。
特別清算
特別清算は、債務超過の疑いがある株式会社が、裁判所の監督のもとで会社を清算する手続きです。
破産手続きに比べてプロセスが比較的シンプルで、費用を安く抑えられる可能性が高い点や、ネガティブなイメージなく会社を整理しやすい点がメリットといえます。
特別清算が成立するためには、債権者集会において「出席した議決権者の過半数の賛成」と「総債権額の3分の2以上の同意」という要件をクリアしなければなりません。そのため、債権者の全面的な協力が必要不可欠です。
親会社が子会社を整理するケースなど、株主や債権者の利害が一致しており、全員の協力が得られることが確実な状況でなければ、なかなか踏み切れないのが懸念点といえます。
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法人破産
法人破産は、大きな借金の残る会社を消滅させて再スタートを切るためには、もっとも確実な手段といえます。破産を申立した時点で、会社・個人の債務どちらも消滅させられるのが大きなメリットです。
弁護士に破産手続きを依頼すると、弁護士は受任通知を送付します。これにより債権者からの厳しい督促が即座に停止され、経営者は取り立ての不安や恐怖から解放されます。
その後は、裁判所が選任した破産管財人が、公平な立場で財産の清算と配当を進めてくれます。
費用がほかの方法に比べて高くなるのがネックですが、弁護士に依頼すれば裁判費用を大幅に抑えられる「少額管財」制度が利用可能です。まずは弁護士に相談して、休眠するか破産するかを決定しましょう。
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会社を休眠させる場合の手続き

会社を休眠させる場合の手続きは、以下のように進めていきます。
休眠手続きは複雑ではないため、決定さえすればスムーズに進んでいきます。手順をおさえて、適切に手続きを済ませましょう。
株主総会や取締役会で休眠の決議をする
まずは、株主総会や取締役会で、休眠の決議をしましょう。法律上、株主総会や取締役会での決議は必須とされていません。
しかし、トラブルを避けて円滑に手続きを進めるためにも、社内で正式に休眠の意思決定をするのが望ましいです。
会議の議事録は、官公庁への届出の際に提出が求められる場合があります。休眠の決定を客観的に証明できる書類となるため、必ず作成しておきましょう。
各機関に書類を提出する
社内での意思決定が済んだら、各所への届出をします。
まずは「異動届出書」を提出しましょう。異動届出書は各税を管轄する公的機関に提出するため、税務署・都道府県税事務所・市区町村の3つの機関に提出する必要があります。
とくに、都道府県税事務所・市区町村への提出は法人住民税の均等割にかかわるため、忘れずに提出してください。
書類の提出とあわせて「均等割の免除は可能か」を事前に確認しておくと、休眠中の税負担を最小限に抑えられる可能性があります。延滞税の加算や差し押さえといったことが発生しないよう、丁寧に手続きを進めましょう。
まとめ

借金のある会社を休眠させるのは、リターンよりもリスクの高い方法です。
借金の返済や事業の再開の見通しが明確な場合は、休眠を検討してもよいですが、それ以外のケースでは、法人破産などの手続きを考えたほうがよいでしょう。
千代田中央法律事務所では、法人破産や廃業の手続きに関する相談を受け付けています。初回は無料で相談できるため、会社を休眠すべきかどうか悩んでいる人は一度相談して解決の糸口を探ってみましょう。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

