会社の清算結了手続きでは、清算中に確定申告が必要です。清算中の確定申告にはタイトな期限が設けられており、遅延するとペナルティが課されます。できる限りスムーズに申告・清算手続きを進めるには、期限の把握やスケジュールの立て方が重要です。
この記事では、清算結了の申告期限や、延長の可否、申告をしなかった際のリスクなどを解説します。会社の清算手続きを進めようとしている人は、参考にしてください。
清算結了の申告期限はいつまで?

清算結了の申告期限はタイトですが、期限内に進めなければなりません。申告期限や清算結了日との違いを解説します。
申告は残余財産が確定した翌日から1ヶ月までに行う
会社の清算手続きにおける税務申告は、残余財産が確定した日の翌日から1ヶ月以内です。短期間で法人税や消費税や法人市民税・事業税といったさまざまな税の申告を済ませる必要があります。
通常の確定申告では申告期限の延長制度を利用できますが、清算結了の最終申告においては適用されません。残余財産が確定した時点で会社の経済活動は完全に終了したとみなされ、最終報告を行うだけだからです。さらに、この1ヶ月という期間をより短くする重大な例外規定があります。
加えて、残余財産確定の20日後に株主へ最終分配を行う場合、申告期限はその分配日の前日へと短縮されます。残余財産の分配日が申告期限に直接影響するため、確定申告も含めて清算スケジュールを立てる必要があるのです。
会社法上の清算結了日との違い
申告期限と清算結了日は異なるため、混同しないよう注意が必要です。税務上の申告期限のカウントが開始されるのは、あくまで社内で会計上の計算が完了した「残余財産確定日」です。残余財産確定日は、すべての資産の現金化と債務の弁済を終え、株主に分配すべき財産の最終金額が事実上ゼロまたはプラスで確定した日を指します。
一方、清算結了日とは、その確定した決算報告書を株主総会で承認した後、法務局へ清算結了の登記申請を行い、登記簿に記載される法律上の日付です。税務署は経済活動の実態を基準とするため、社内で財産が確定した時点で申告準備は可能と判断し、その日を期限の起算点とします。
たとえば、12月10日に残余財産が確定し、株主総会の承認を経て12月22日に登記申請した場合、申告期限のカウントは12月10日からはじまっています。法務局での手続き完了を待ってから申告準備をはじめると、期限に間に合わない可能性があるため、注意が必要です。
清算結了の申告期限は延長できる?

清算結了においては、複数回の確定申告をすることになります。解散・清算時の申告は延長が可能ですが、残余財産確定後の申告は延長できません。それぞれの期限について解説します。
解散・清算時の申告は特例により延長できる
会社の解散後、債権の回収や資産の売却といった清算手続きが1年以上かかるケースがあります。そのため、清算活動の途中に行う確定申告については、事前に税務署へ「申告期限の延長の特例の申請書」を提出していれば、通常の事業年度と同様に申告期限を1ヶ月間延長可能です。
対象となるのは、以下の申告です。
- 解散事業年度の申告:解散日から事業年度末までの申告
- 清算事業年度:清算が長引いた場合に1年ごとに区切って行う申告
上記の期間はまだ会社の決算を確定させる作業に時間を要する場合があるため、法人税法上の便宜が認められています。たとえば、3月決算の法人が2025年5月20日に解散した場合、本来の申告期限は解散から2ヶ月の7月20日ですが、延長申請済みであれば8月20日まで提出を延ばせます。
ただし、延長されるのは申告書の提出期限のみで、納税期限は原則延長されません。本来の期限を過ぎて納付する税額には利子税がかかる点に注意が必要です。
残余財産確定後の申告は延長できない
会社にとって最後の確定申告となる「残余財産確定事業年度」の申告は、前述のとおり残余財産が確定した日の翌日から1ヶ月以内と定められています。この期限は、いかなる理由があっても延長が認められません。法人税法第75条の2で「残余財産の確定の日の属する事業年度を除く」と明確に規定されているためです。
たとえ毎年、定款の規定に基づき申告期限を延長してきたとしても、最後の清算申告には適用できません。最終申告は決して延ばせないことを念頭に、清算スケジュールを立てましょう。
清算する際に必要な確定申告の種類
.jpg)
会社の清算手続きでは、以下の確定申告をする必要があります。
それぞれ事業年度や期限が異なるため、ルールや目的を理解しておきましょう。
会社倒産後の税金の取り扱いを知りたい人は、下記の記事も参考にしてください。
会社倒産後の税金はどうなる?破産手続きの基本と個人に支払い義務が残るケースを解説
解散確定申告
会社の清算における税務手続きは、まず「解散確定申告」からはじまります。株主総会の特別決議などによって会社が解散した際に必ず行う、最初の確定申告です。
会社の解散は事業年度を強制的に終了させる事由とされており、事業年度の開始日から解散したその日までを解散事業年度として区切ります。この期間の所得や税額を計算し、解散日の翌日から2ヶ月以内に申告と納税を完了させます。
たとえば、3月決算の法人が2025年9月30日に解散した場合、解散事業年度は4月1日から9月30日までとなり、申告期限は11月30日です。この場合、事業年度が1年に満たないため、減価償却費や法人住民税の均等割は月割りで計算します。
自社の解散日を正確に確認し、その2ヶ月後の日付を期限としてスケジュールを立てていきましょう。
清算確定申告
清算手続きが長引く場合に発生するのが清算確定申告です。解散後、不動産の売却や売掛金の回収に時間がかかり、1年以内に手続きが完了しない場合に行います。会社に資産や負債が残っている限り法人格は存続するため、1年に一度は財産の状況を税務署へ報告しなければならないのです。
清算確定申告は、解散日の翌日から1年ごとに事業年度(清算事業年度)を区切り、その事業年度が終了した日の翌日から2ヶ月以内に行います。たとえば、2025年9月30日に解散した場合、最初の清算事業年度は翌日の10月1日から2026年9月30日までとなります。
この期間の申告期限は、その2ヶ月後の2026年11月30日です。翌年も清算が続くようであれば、さらに次の1年についても同様の申告が必要です。
清算に時間がかかる場合は、必ず清算確定申告を済ませるようにしてください。
残余財産確定後の申告
法人として最後に行う税務手続きが残余財産確定後の申告です。
すべての資産の現金化と債務の弁済が完了し、株主に分配すべき財産の最終金額が確定した「残余財産確定日」をもって事業年度を締め切り、最終報告を行う申告です。
前述のように期限は1ヶ月と短く、延長も認められないため、残余財産が確定したら速やかに申告手続きに入りましょう。
消費税・法人住民税の申告
法人税だけでなく、消費税と法人住民税の申告も必要です。消費税や法人住民税の申告は、基本的には法人税の考え方と連動します。
つまり、解散・清算中の申告期限は2ヶ月、そして残余財産確定後の最終申告は1ヶ月となります。納税者の手続きが複雑にならないよう、各税法が法人税法に準拠する形で定められているためです。
自社が納税する都道府県・市区町村のWebサイトで様式名や要件を確認し、法人税とあわせて適切に納めましょう。
清算時に使いたい還付・節税制度

清算時には、以下のような制度を有効活用しましょう。
還付や節税につながるため、清算時の支出を抑えられます。該当するものがないか、確かめておきましょう。
欠損金の繰戻還付
欠損金の繰戻還付制度を活用すれば、一部の税金が戻ってきます。欠損金の繰戻還付は、前期に黒字で法人税を納めていた場合、清算時の赤字を利用して、還付を受けられる制度です。
具体的には、解散事業年度や清算中の事業年度で発生した赤字(欠損金)を、黒字だった前期にさかのぼって相殺し、払い過ぎた法人税を取り戻す仕組みです。通常は資本金1億円以下の中小企業などに適用が限定されていますが、会社の解散時には資本金規模の要件が外れ、すべての法人が利用できます。
たとえば、前期に200万円の法人税を納付した会社が、今期の解散に伴う事業年度で800万円の赤字を計上した場合、赤字と前期の黒字を相殺すれば、納付済みの税金から相当額の還付を受けられる可能性があります。
繰戻還付の手続きは、申告時にあわせて専用の請求書を提出しなければなりません。期限を過ぎると権利が消滅するため、忘れずに手続きしましょう。
繰越欠損金による相殺
青色申告を継続していれば、過去10年以内に発生した赤字を「繰越欠損金」として翌年度以降に繰り越せます。清算の過程で不動産や有価証券などを売却し、想定外の利益(譲渡益)が出そうな場合に有効です。清算中に発生した利益も、繰越欠損金の範囲内であれば相殺可能で、課税所得を圧縮して法人税の負担を軽減できます。
もし会社が債務超過の状態で、株主への分配がないと見込まれる場合には、繰越期限が過ぎた10年以上前の欠損金も損金として相殺可能です。清算時に大きな資産売却を予定しているなら、まずは自社の繰越欠損金の額を確認し、債務超過であれば期限切れ欠損金の活用も検討しましょう。
清算結了後の確定申告を怠るとどうなる?

清算結了後の確定申告を怠ると、金銭面でのペナルティが課されます。確定申告を怠った際のペナルティを解説します。
無申告だと延滞税が課される
定められた申告期限までに清算結了の確定申告書を提出しなかった場合、本来納めるべき法人税や消費税とは別に、延滞税が課されます。延滞税は法定納期限の翌日から実際に納付する日までの日数に応じて計算され、遅れるほど金額が増えていきます。
また、延滞税に加えて無申告加算税も課されるため、注意しましょう。無申告加算税は5%から20%と、本来の税額よりも高い税率で課されます。
清算結了の最終確定申告は残余財産確定後の1ヶ月が期限のため、申告が遅れる可能性があります。早いうちから準備を進め、申告遅れがないようにしましょう。
還付や特例が適用できない場合がある
申告期限を過ぎてしまうと、本来受けられるはずの還付や特例が受けられないケースがあります。たとえば、欠損金の繰戻還付は、還付の対象となる事業年度の確定申告書を法定申告期限内に提出していないと適用できません。たとえ還付の対象になっていたとしても、申告に遅れてしまうと対象外になってしまうのです。
清算手続きが複数の事業年度にまたがり、2期連続で期限後申告を行うと、繰越欠損金の損金算入などに不可欠な青色申告の承認が取り消されるリスクもあります。節税ができず負担が増えるため、必ず期限内に申告してください。
解散から清算結了までの流れ

会社の清算は、会社法に定められた法的な手続きを正しい順序で進める必要があります。解散から清算結了までは、以下のステップで進めていきます。
各ステップですべきことを解説します。より詳しく知りたい人は、下記の記事も参考にしてみてください。
法人解散から清算結了までの11ステップ|費用や期間をわかりやすく解説
1. 株主総会で解散決議をする
まずは、株主総会を招集して会社の解散と、清算人の選任を行います。この決議は会社の存続を左右する最重要事項であるため、議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成を得る特別決議が必要です。決議が成立すると、その日が会社の解散日となり、ここを基準に申告期限が決まります。
解散日の確定以降、清算に向けた手続きがはじまります。弁護士などの専門家と連携しながら、清算結了まで適切に進めていきましょう。
2. 債務・債権の整理をする
選任された清算人は、会社の財産関係を整理します。まず、法律で定められた「債権者保護手続」として、官報に解散公告を掲載し、会社にお金を貸している債権者が名乗り出る機会を最低2ヶ月間設けなければなりません。また、債権を取引先から回収し、会社の土地や建物、車両といった資産を売却して現金化を進めます。
そうして得た資金から、買掛金や金融機関からの借入金といった会社の債務を弁済していきます。時間がかかるケースもあるため、粘り強く丁寧に進めていきましょう。
3. 残余財産を分配する
会社の負債がなくなり手元に財産が残っている場合、残った財産額を計算して確定させます。この最終金額が確定した日が「残余財産確定日」です。
この確定を持って残余財産確定後の申告期限が決定します。計算した財産額をもとに申告書を作成して、適切に申告・納税を済ませましょう。
申告完了後は、株主総会でその決算報告書の承認を得てから、各株主の持ち株割合に応じて財産を分配します。
4. 清算結了登記をする
残余財産の分配が完了し、最終的な会計内容をまとめた決算報告書が株主総会で承認されると、法務局で清算結了登記をします。株主総会での承認から2週間以内に、管轄の法務局へ清算結了登記を申請しなければなりません。登記申請が受理されることで、会社の登記簿は正式に閉鎖され、法律上、会社は完全に消滅します。
登記が完了すると、会社が閉鎖されたことを証明する「閉鎖事項全部証明書」が法務局で取得できます。この書類は、税務署や都道府県、市区町村へ清算手続きの報告をする際に提出する「異動届出書」に添付が必要です。登記が完了したら必ず取得し、役所への報告を行いましょう。
まとめ

清算結了時の申告期限は、解散確定申告や清算確定申告よりもさらに厳しいため、徹底したスケジュール管理が重要です。期限を守りつつ、繰戻還付や赤字相殺なども活用しながら申告を完了しましょう。
千代田中央法律事務所では、清算や破産手続きに関する相談を受け付けています。初回は無料で相談できるため、清算手続きで不安なことがある人は、利用してみてください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

