会社の経営を終了し、財産などを整理する際は「清算の手続き」をする必要があります。清算を適切に進めるには、清算人の存在が必要不可欠です。
しかし、清算人はどういった役割があり、どのように選ぶのかわからない人もいるでしょう。この記事では、清算人の業務や選任方法、報酬相場などを解説します。清算人について理解を深め、適切に会社の整理を済ませたい人は、参考にしてください。
清算人とは

清算人とは、解散した会社の財産整理を行い、最終的に残った財産を株主に分配する役割を担います。清算人になれる人や破産管財人との違いを解説します。
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清算人になれる人
清算人になるためには、特別な公的資格は必要ありません。個人だけでなく法人が就任することもできます。ただし、実務上は、会社の資産状況や契約関係をもっとも深く理解している元代表取締役や取締役が就任するのが一般的です。
会社の状況が複雑で、不動産の任意売却や利害関係者との交渉に専門知識が求められる場合は、弁護士や司法書士を清算人に選任することも有効な選択肢です。また、親会社が子会社を整理する際には、親会社自身が法人として清算人になることもできます。
誰が清算人になるかによって手続きの進めやすさが変わるため、自社の状況を考慮し、円滑に清算事務を完了できる人を選びましょう。
破産管財人との違い
清算人と破産管財人は、立場や役割が異なります。清算人は会社側の代理人として、会社主導で手続きを進める立場です。一方、破産管財人は裁判所から選任され、中立的な立場で職務を執行します。
清算人が担当する任意清算は、会社の資産で負債を完済できる「資産超過」の状態が前提です。一方、破産管財人が登場する破産手続きは、資産では負債を返済できない「債務超過」や「支払不能」の状態で行われます。そのため、互いに以下のように目的が異なるのです。
| 目的 | |
|---|---|
| 清算人 | 債務をすべて弁済した後に残った財産を株主に分配すること |
| 破産管財人 | 会社の財産を債権者へ法にもとづき公平に分配すること |
もし債務超過の可能性がある場合は、自己判断で清算手続きを進めると法的リスクが生じる可能性があります。必ず弁護士に相談し、どちらの手続きを選択すべきか判断を仰ぎましょう。
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清算人の主な職務

清算人の主な職務は、以下の3つです。
それぞれの職務について解説します。
1. 現務の結了
現務の結了は、解散時点で進行中だった会社の事業活動や契約関係をすべて停止させ、整理・終了させるものです。事業が動いている状態では会社の資産と負債の全体像を正確に確定させられず、次のステップである債権者への公平な弁済に進めないからです。
具体的な業務としては、以下のようなものがあります。
- 進行中のプロジェクトの完了または合意解約
- 事務所の賃貸借契約や機器のリース契約の解約手続き
- 在庫商品の売却処分
- 従業員との雇用契約の終了に伴う社会保険・労働保険の手続き
清算人に就任したら、まず会社が結んでいるすべての契約をリスト化し、終了に向けて具体的なスケジュールを策定することからはじめましょう。
より詳しくスケジュールを知りたい人は、下記の記事も参考にしてください。
法人解散から清算結了までの11ステップ|費用や期間をわかりやすく解説
2. 債権の取り立て・債務の弁済
清算手続きでは、債権の取り立てや債務の弁済を行います。
まずは売掛金や貸付金といった会社が有する債権を取り立て、会社の財産を現金化・確定させましょう。次に、確保した財産の中から、買掛金や借入金といった債務の弁済を行います。
取り立てや弁済はすべての債権者に対し公平な弁済機会を保障するために、会社法で厳格な手順が定められています。具体的に義務付けられている内容は、以下のとおりです。
- 官報への解散公告の掲載
- 会社が把握している債権者への個別催告
とくに重要なのが、官報公告の翌日から最低でも2ヶ月間は、原則として債務の弁済が禁止されるルールです。この期間を遵守せずに弁済を行うと、他の債権者の利益を害する可能性があるため、清算人の責任問題に発展しかねません。
就任後は速やかに債権者リストを作成し、公告手続きに着手しましょう。
3. 残余財産の分配
残余財産の分配は、現務の結了と債務の弁済がすべて完了し、会社の負債を完全に支払い終えた後に、残った財産を株主の持株比率に応じて分配する手続きです。
会社は株主のものであるため、法人格を消滅させる最終段階として、残った価値を出資者に還元するために行われます。
分配の方法は、会社の資産をすべて売却して現金で分配する「金銭分配」が一般的です。定款に別段の定めがある場合などには、不動産や有価証券などをそのままの形で分配する「現物分配」も可能です。
ただし、現物分配を行う場合でも、株主には金銭での分配を求める権利(金銭分配請求権)が保障されており、清算人はこの権利に対応する義務があります。
清算人の選任の仕方

清算人の選任には複数の方法があり、法的な優先順位が存在します。自社がどの方法で選任すべきかを理解し、適切な人選をしましょう。
定款にもとづき決める
定款に定めがある場合、その規定に従うことが法的に最優先されます。
たとえば、定款の条文に「当社が解散したときは、その時点の代表取締役が清算人となる」と特定の個人が指定されている場合や「当社の清算人は、〇〇株式会社とする」と法人が指定されている場合があります。こうした記述がある場合、それに従って清算人を選任しましょう。
確認を怠り、定款の規定と異なる方法で清算人を選任してしまうと、その選任手続き自体が無効になるリスクがあります。まずは定款を確認するのが重要です。
株主総会の決議で決める
定款に清算人の定めがない場合、一般的には株主総会において清算人を選任する決議を行います。
決議による選任は、会社の所有者である株主の意思にもとづき、清算人を決定できるのがメリットです。元取締役などの内部事情に詳しい人物はもちろん、資産の売却などで法的な専門知識が必要な場合には、弁護士や司法書士といった外部の専門家を選ぶことも可能です。
基本的な手順としては、株主総会の議案として「清算人選任の件」を上程し、普通決議(出席株主の議決権の過半数)で可決します。
選任された人物からは、後の登記申請で必要な「就任承諾書」に署名押印をもらうのが重要です。手続きを円滑に進めるためにも、議事録には決議内容を正確に記載してください。
取締役が就任する
定款に清算人に関する定めがなく、株主総会でも清算人を選任しなかった場合、会社法第478条の規定により、解散時点の取締役が自動的に「法定清算人」として就任します。会社の業務執行を担ってきた取締役が、そのまま清算という事後処理を行うのが合理的であるという考え方にもとづくものです。
たとえば、株主総会で解散の決議はしたものの、清算人選任の議題を失念したケースなどがこれに該当します。こうした場合、特別な手続きなく、そのときの取締役全員が清算人となります。
ただし、複数人が清算人になるとその後の意思決定が煩雑になるおそれがあります。通常は株主総会決議によって、特定の人物を清算人として明確に選任するのが望ましいでしょう。
裁判所が選任する
定款や株主総会、法定清算人といった方法で清算人が決まらない場合や、利害関係者からの申立てによって裁判所が必要と判断した場合は、裁判所が清算人を選任することがあります。清算人がいない状態が続くと、債権の回収や債務の弁済が進まず、債権者などの利害関係者に不利益が生じるためです。
たとえば、長期間登記がなく「みなし解散」となった休眠会社で、当時の取締役と連絡が取れない場合などは、裁判所が清算人を選任する場合があります。会社の債権者などが裁判所に「清算人選任の申立て」を行うと、裁判所は利害関係のない弁護士などを清算人として選任してくれます。
ただし、この方法は申立手続きがほかの方法に比べて複雑です。また、裁判所に予納金を納める費用も発生します。みなし解散の通知を受けた際などは放置せず、速やかに専門家に相談しましょう。
清算人の報酬相場

清算手続きを進めるうえでは、清算人に報酬を支払う必要があります。誰が清算人になるかによって報酬の決め方や相場は大きく異なります。予算策定や社内での承認手続きの参考としてください。
報酬は株主総会で決定
会社の元取締役など内部関係者が清算人に就任する場合、報酬額は定款に定めがなければ、株主総会の決議によって決定します。清算人の報酬は会社の経費となるため、会社の所有者である株主が金額の妥当性を判断し、承認する手続きが必要です。
報酬の決め方には、清算事務が完了するまでの期間は月単位で支払う方法や、清算結了時に一括で支払う方法などがあります。また、代表取締役が清算人を兼務し、役員退職金などで手当がなされる場合には、無報酬とすることも可能です。
決定した内容は、税務上のトラブルを避けるためにも必ず株主総会議事録に明記しておきましょう。
弁護士・司法書士に依頼する場合の費用相場
清算手続きを外部の専門家に依頼する場合、費用は業務の範囲によって大きく異なります。
法務局への登記申請手続きの代理のみを依頼するのであれば、司法書士が対応するのが一般的で、報酬相場は7万円から12万円程度です。ただし、登録免許税などの実費は別途必要です。
一方、債権者との交渉や複雑な資産売却、利害関係の調整など、法的な実務全般を含めて清算人自体への就任を依頼する場合は、弁護士に相談することになります。この場合の費用は案件の難易度に応じて大きく変動し、最低でも40万円から50万円以上、複雑な案件では100万円を超えることもあるでしょう。
まずは自社でどこまで対応できるかを見極め、依頼したい業務範囲を明確にしたうえで、複数の専門家から見積もりを取りましょう。
清算人に及ぶ責任

清算人の権限は大きい一方で、取締役と同様に、会社や株主、債権者といった利害関係者に対して重い責任を負っています。どのような義務があり、それに違反するとどうなるのか抑えておき、リスク管理を徹底しましょう。
任務懈怠責任
清算人には、任務懈怠責任(にんむけたいせきにん)が生じます。清算人は、以下の2つの義務を背負い、業務にあたります。
- 善管注意義務:善良な管理者として通常期待される注意を払う義務
- 忠実義務:常に会社の利益を最優先に行動する義務
任務懈怠責任とは、上記の義務に違反して、会社の財産を不当に減少させるなど損害を与えた場合、清算人個人が損害賠償責任を負うものです。
たとえば、回収可能な売掛金を放置して時効にしたり、会社の資産を不当に安い価格で売却したりする行為は、善管注意義務違反にあたります。また、悪意や重大な過失によって債権者などの第三者に損害を与えた場合も同様です。
こうしたリスクを防ぐには、財産目録と貸借対照表を正確に作成し、株主総会の承認を得るのが重要です。
競業避止・利益相反取引の制限
清算人は、会社の利益を守る忠実義務の一環として、特定の取引を行うことが厳しく制限されています。その代表例が「競業取引」と「利益相反取引」です。
競業取引とは、清算人が自己や第三者のために、清算会社の事業と同じ分野の取引を行うことです。利益相反取引とは、清算人が自身の利益を得る一方で、会社が不利益を被るような取引を指します。
たとえば、清算人が個人的に所有する不動産を、清算会社に市場価格より高く買い取らせるケースが該当します。こうした取引は、清算人がその立場を利用して会社の利益を不当に害することを防ぐために制限されています。
ただし、これらの取引はすべて認められないわけではありません。事前に株主総会で取引の重要な事実を開示して承認を得れば、例外的に実施可能です。自己判断で進めると責任を問われる可能性があるため、必ず専門家へ相談したうえで進めましょう。
清算人にトラブルが起きた場合の対処法

清算人になんらかのトラブルが起きた場合は、速やかに適切な対処をする必要があります。想定されるトラブルをもとに、対処法を解説していきます。
清算人がいない場合
なんらかの理由で清算人が一人も存在しない状態になった場合、株主や債権者などの会社の利害関係者は、裁判所に対して「清算人選任の申立て」を行い、新たな清算人を選任してもらいましょう。清算人がいなければ、財産の換価や債務の弁済といった清算事務が完全に停止してしまい、利害関係者の利益が損なわれるためです。
とくに、長年登記が更新されず「みなし解散」となった会社では、当時の取締役が法定清算人となりますが、その行方がわからないケースもあります。このような状況を放置すると、債権者は債権回収の機会を、株主は残余財産を受け取る権利を失いかねません。
清算人がいないことが判明した場合は、弁護士に相談して、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所への選任申立てを検討してください。
清算人が亡くなった場合
清算人が亡くなった場合、その後の対応は会社の状況によって異なります。まず検討したい手段は、株主総会を速やかに開催し、新たな清算人を選任することです。会社の意思決定機関である株主総会が機能しているならば、この方法が最優先されます。
しかし、株主の所在が不明であったり、株主兼清算人が亡くなり相続人全員が相続放棄をしたりするなど、株主総会の開催が困難な場合もあります。その際は清算人がいない場合と同様に、会社の債権者などの利害関係者が、裁判所に対して清算人選任の申立てをします。
清算人の死亡が判明したら、まずは株主名簿などを確認し、株主総会で後任者を選任できないかを検討しましょう。難しい場合は、弁護士に裁判所への申立てについて相談しましょう。
清算人を解任する場合
清算人は、株主総会の特別決議によっていつでも解任できます。ただし、その解任について正当な理由がない場合、解任された清算人は会社に対して損害賠償を請求する権利があります。
清算人は株主の信頼にもとづいて職務を行う立場です。信頼を裏切る行為があった場合には、会社法により株主の意思で解任してもよいと認められています。
ただし、利害関係者の申立てにより裁判所が選任した清算人は、株主総会では解任できません。解任を検討する際は、その理由が法的に正当な事由にあたるか、客観的な証拠とともに整理する必要があります。
感情的な対立で解任に踏み切ると、後から不当解任として損害賠償を請求されるリスクもあります。事前に弁護士に相談し、解任が法的に妥当か確認しましょう。
まとめ

清算人は、会社の整理を担う重要な立場です。会社の業務を終了させ、債権の取り立てや債権の弁済、財産の分与により、会社を適切に整理します。清算人の決定などは、株主総会で行います。会社の整理については慎重に進める必要があるため、株主総会は重要な場となるでしょう。
千代田中央法律事務所では、破産や清算、各種整理などの相談を受け付けています。会社を清算したい人や、清算手続きで不安を感じている人は、ぜひ無料相談を利用してみてください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

