借金の返済が困難でもマイホームや車を手放したくない人にとって、個人再生は有効な選択肢です。個人再生は自己破産を回避しつつ、借金の元本を最大で10分の1まで減額できる制度ですが、利用の際は裁判所が定める条件をクリアしなければなりません。
個人再生の条件を理解しておけば、債務完済に向けた適切な計画を立てられます。この記事では、個人再生を実施できる条件や基準を具体的に解説します。
個人再生の主な条件

個人再生を利用するためには、裁判所から「借金を減額すれば、残りの金額は確実に完済できる能力がある」と認められる必要があります。法律上、手続きを進めるうえで求められる要件は複数存在します。
個人再生ができる条件を確認しましょう。
支払不能に陥る可能性があること
個人再生をするには、支払不能に陥る可能性があることが要件となります。たとえば、以下のようなケースが該当します。
- 生活費を極限まで切り詰めても借金が減らない場合
- 別の貸金業者から借り入れて返済に充てる自転車操業に陥っている場合
もし一度も延滞をしていない場合であっても、毎月の収入と支出のバランスから、将来支払いが滞る可能性が高いことを証明できれば、申立ては可能です。
借金総額が5,000万円以下であること
個人再生は、借金合計額が5,000万円以下に収まっていなければ、利用できません。借金合計額には、以下のようなものが含まれます。
- 金融機関からの借入元本
- 未払いの利息
- 遅延損害金
- 親族や知人からの私的な借金
ただし「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用する場合、特例により、ローン残高を5,000万円の枠から除外してよいと認められています。
継続した収入を得られる見込みがあること
個人再生は、大幅に減額された後の借金を原則3年間(特別な事情がある場合は最長5年間)かけて、毎月分割で返済していく制度です。途中で返済が滞る事態を防ぐため、将来にわたり継続して収入を得る見込みがあることが要件となります。
毎月の給与が安定している会社員や公務員であれば、個人再生が認められやすい傾向にあるでしょう。
ただし、雇用形態が正社員である必要はなく、パートやアルバイト、派遣社員であっても、同じ職場で長期間働き続けていれば条件を満たせる可能性があります。また、公的年金を受給している方も、安定収入として認められる対象です。
計画通りに返済できる見込みがあること
個人再生をする際は、裁判所に提出する再生計画案(返済スケジュール)が、現実的に実行可能だと判断されなければなりません。家計の収支状況から、毎月の生活費を差し引いた余剰金で無理なく返済を続けられるかどうかがポイントです。
手続きのなかでは、実際に数ヶ月間にわたって返済予定額を積み立てるテストが実施されるのが通例です。無駄な支出を削減し、堅実な家計管理ができていることを示せれば、個人再生ができる可能性は高まるでしょう。
個人再生できないケース

個人再生は有効な債務救済制度ですが、状況次第では裁判所から申立てを退けられたり、手続きの途中で不認可となったりするリスクがあります。
個人再生できないケースについて見ていきましょう。
安定した収入がない
個人再生は、将来にわたる確実な返済が前提です。無職で無収入の場合や、生活保護を受給している場合など、安定した収入がない人は、個人再生を利用できません。生活保護費については、あくまで最低限度の生活を保障するための資金であり、借金の返済に充てることが法律で禁じられています。
また、個人事業主で月ごとの売上変動が激しく、赤字の月が頻発しているような場合も安定性に欠けると判断される可能性があります。
再生手続き費用を用意できない
個人再生は、申立て費用を準備できなければ実行できません。裁判所に納める予納金や弁護士への報酬をあわせると、数十万円単位の資金が必要となります。
加えて、個人再生委員が選任される事案では、委員に対する報酬として約数十万円の予納金が追加で発生します。事前にどれくらいの資金を用意できるか、綿密な計画を立てておかなければなりません。
再生計画案が現実的ではなく同意を得られない
個人再生をする際は、再生計画案を作成します。この再生計画案は、お金を貸している債権者からの同意を得てはじめて効力を持ちます。
たとえば、実務で多く利用される「小規模個人再生」では、債権者による書面決議が行われる仕組みです。
この決議で「反対した債権者の人数が全体の半数以上」あるいは「反対した債権者の持つ債権額が総額の半分を超える」のいずれかに該当すると、計画案は否決され、手続きは廃止されてしまいます。
多額の財産を所持している
個人再生には「清算価値保障原則」というルールが存在します。手続き開始後に返済する借金の総額は、申立人が所有する財産をすべて現金に換算した金額である「清算価値」と同等以上でなければならない決まりです。
たとえば、解約返戻金が200万円ある生命保険や、査定額が150万円の自動車を所有している場合、手持ちの財産価値の合計額をベースに返済額が引き上げられます。価値の高い資産を所有しているケースほど、返済総額が増える点に注意が必要です。
履行テストで支払いを怠った
裁判所の手続きが開始されると、本番の返済を見据えた履行テストが行われます。指定された口座へ毎月の返済予定額とほぼ同額を約半年間にわたって継続的に入金するものです。
この期間中は、期日遅れや金額不足は避けなければなりません。指定通りに入金できなかった場合、裁判所は「返済能力なし」とみなし、手続きが終了するケースがあります。
財産隠しや虚偽申告をした
自身の財産を隠蔽したり、裁判所に虚偽の事実を申告したりする行為は、法的処分の対象になる可能性があります。
たとえば、提出する財産目録や家計収支表に意図的なごまかしが発覚すれば、不認可決定が下されるだけでなく、詐欺再生罪として刑事罰の対象になる場合もあります。
手続きの際は、包み隠さず正直に財産を開示し、誠実な態度で手続きに臨むのが重要です。
再生の種類

個人再生には、以下の2種類の手続きがあります。
どちらを選ぶかによって、借金の減額幅や債権者が反対した際の対応などが変わるため、違いを正しく理解しましょう。
1. 小規模個人再生
小規模個人再生は、個人事業主から一般的な会社員まで幅広く利用されている個人再生の形態です。小規模個人再生のメリットは、借金の減額幅を広く設定しやすい点です。
利用時は債権者からの反対が過半数未満である必要がありますが、法的なルールに則った計画であれば、多くの金融機関は同意する傾向にあります。
2. 給与所得者等再生
給与所得者等再生は、会社員や公務員など、毎月の収入変動が少ない方を対象とした個人再生の形態です。年収の変動幅が、過去2年間で概ね20%以内に収まっていることが利用の目安となります。
給与所得者等再生は債権者の同意が一切不要ですが、返済額の計算方法に、収入から最低生活費を差し引いた額である「可処分所得」を2年分支払うという条件が加わります。
返済額が高額になりやすいため、債権者の反対をどうしても回避したい際に利用するのが一般的です。
個人再生をするメリット

複雑な手続きを乗り越えてでも個人再生を選ぶ人がいるのは、ほかの債務整理にはない強みがあるためです。
個人再生をするメリットについて解説します。
借金を最大10分の1まで減額できる
個人再生は、借金自体を大幅に圧縮できる点が魅力です。個人再生では法律が定める最低弁済基準額に沿って借金が減免されます。同じく債務整理の手法に任意整理がありますが、こちらは将来の利息カットのみです。
個人再生における借金の圧縮額は以下のとおりです。
| 債務額 | 減額上限 |
|---|---|
| 100万円〜500万円未満 | 一律100万円 |
| 500万円〜1,500万円未満 | 総額の5分の1 |
| 1,500万円〜3,000万円未満 | 一律300万円 |
| 3,000万円〜5,000万円以下 | 総額の10分の1 |
減額された金額は3年〜5年の期間で返済していくため、負担を抑えながら債務整理ができます。
住宅ローン特則が利用できる
個人再生では、持ち家を手元に残せる「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用できます。この制度を利用すると、住宅ローンだけは今までどおり支払い続け、それ以外の消費者金融やカードローンなどの借金のみを減額対象として整理できます。
ただし、住宅ローンを滞納しており、保証会社が代位弁済を行ってから6ヶ月を経過すると特則を利用できなくなります。早期に利用するのが望ましい制度です。
資格制限がない
自己破産を選択した場合、警備員や宅地建物取引士、士業といった特定の職業に就くことが法的に制限されてしまいます。
一方、個人再生の手続きにおいては、どの職業や資格に対する制限も設けられていません。会社の役員に就任している場合でも、退任事由には該当しません。職場に手続きの事実を知られるリスクを抑えながら、今までどおりの社会生活を継続できます。
個人再生をするデメリット

個人再生は借金を大幅に減らせる一方で、デメリットもいくつか存在します。デメリットは生涯続くわけではありませんが、生活を立て直す際は受け入れたうえで手続きを進めなければなりません。
個人再生をするデメリットを解説します。
ローン契約がしにくくなる
個人再生を行うと、金融取引履歴を管理している信用情報機関に、債務整理を行ったという事実が事故情報として登録されます。
事故情報が登録されている期間は、新規でクレジットカードを作成したり、ローンを組んだりできません。また、スマートフォンの本体代金を分割払いで契約するのも難しくなります。
登録期間は手続き開始から約5年〜7年程度続きます。借金に頼らない生活基盤を、この機会に整えておくのが望ましいでしょう。
官報に氏名・住所が掲載される
個人再生は裁判所を通じて手続きを進めるため、国が発行している機関紙「官報」に、申立人の氏名や住所が掲載されます。掲載のタイミングは、以下の3回です。
- 手続きの開始決定時
- 書面決議の決定時
- 認可決定時
一般の人が日常的に官報をチェックしているケースは少ないため、周囲に発覚する確率は低いでしょう。ただし、官報の情報を悪用する闇金業者などからの連絡には注意してください。
保証人に迷惑がかかる
債務のなかに親族や知人を連帯保証人として立てているものがあれば、保証人には甚大な影響が及びます。個人再生によって借金が減額される効果は、申立てを行った本人にしか適用されないためです。
債権者は連帯保証人に対して、弁護士が受任通知を送付した直後から減額される前の借金全額を一括で支払うよう請求をはじめます。
自身の負担が減っても、世帯としての負担は変わらないことや、別の人に負担がかかることには、注意しなければなりません。
個人再生の流れ

個人再生は、弁護士への相談から裁判所の認可まで、半年から1年程度の期間がかかります。いつどのタイミングで何をすべきなのか、あらかじめ手続きの流れをおさえておきましょう。
1. 弁護士に相談する
まずは債務整理の実績が豊富な弁護士と面談を行い、現在の借金総額や家計の状況を詳細に伝えます。情報をもとに、個人再生が法的に可能かどうかを、専門的な視点から診断してもらいます。
相談時には、借入先の一覧表や給与明細、預金通帳などを持参すると、より正確な見通しを立てられるでしょう。
2. 債権者に受任通知を送付する
弁護士と委任契約を結ぶと、弁護士はすべての債権者に対して受任通知を送付します。通知が送付されると、債務者本人への督促や取り立て行為は制限されます。
債権者への返済も一時的にストップするため、これまで返済に充てていた資金は裁判所の予納金や弁護士費用に充てるようにしましょう。
3. 申立書類を準備して裁判所に提出する
督促が制限されている期間は、資金の準備とあわせて、裁判所へ提出するための申立書類を作成します。
申立て書類には、家計全体の収支状況をまとめた報告書や、資産を網羅した財産目録などが必要で、正確な情報の記載が求められます。
過去2年分の預金通帳のコピーなど、証拠書類の収集も必要です。書類の準備には、1ヶ月〜3ヶ月程度を要するのが一般的です。
4. 再生手続きの開始が決定する
裁判所に書類を提出すると、審査がはじまります。審査の結果、個人再生の要件を満たしていると判断すれば、正式に再生手続開始決定が下されます。
開始決定にあわせて、毎月の返済能力を証明するための履行テストもはじまります。履行テストは手続きのなかでも重要なステップのため、怠らず着実に行うようにしてください。
5. 再生計画案を提出して認可を得る
手続きの開始が決定した後は、裁判所が指定する期限までに、借金の減額幅や今後の返済スケジュールを具体的に記載した再生計画案を提出します。
借金5,000万円以下の人が対象の小規模個人再生を選択している場合は、計画案に対して債権者の書面決議が行われます。過半数以上の反対といった否決要件をクリアし、計画案自体に不備がなければ、裁判所から再生計画認可決定が言い渡されます。
6. 計画に沿って弁済を進める
再生計画が認められると、認可決定が確定した翌月または指定された月から返済がはじまります。
原則3年間、最長5年間、債権者の指定口座へ入金を続けましょう。支払いが滞らないよう、着実に入金を続け、完済を目指します。
個人再生の条件に関するよくある質問

個人再生の条件に関する質問や疑問をまとめました。手続きを検討する際や利用するときの参考にしてください。
Q. 個人再生をするためにやってはいけないことはありますか?
Q. 個人再生をするために必要な費用はどのくらいですか?
Q. 個人再生に反対する業者はいますか?
Q. 個人再生の必要書類はどのようなものがありますか?
Q. 個人再生をするためにやってはいけないことはありますか?
A. 個人再生の手続きの準備段階に入ってからしてはいけない行為のひとつに、偏頗弁済(へんぱべんざい)があります。これは、特定の債権者にだけ優先して借金を返す行為のことです。
偏頗弁済は、すべての債権者を平等に扱わなければならないという法律の原則に反するため、返済額が増えたり手続き自体が認められなくなったりします。
Q. 個人再生をするために必要な費用はどのくらいですか?
A. 個人再生の手続きにかかる費用は、事案の複雑さや住宅ローン特則の有無によって変動します。
一般的な相場は、総額で約50万円〜80万円程度です。弁護士に支払う着手金や報酬金、裁判所に納める申立手数料などの実費が必要です。
なお、個人再生委員が選任されるケースでは、委員に対する予納金として数十万円程度を裁判所へ追加で納めなければなりません。
Q. 個人再生に反対する業者はいますか?
A. 小規模個人再生の手続きにおいて、提出した再生計画案に対して反対の意を表明する業者がいる可能性は十分考えられます。
強硬な反対が予想される業者がいる場合は、債権者の同意が不要な給与所得者等再生へ手続きを切り替えるといった対応が必要です。
Q. 個人再生の必要書類はどのようなものがありますか?
A. 裁判所に「返済能力があり、財産を隠蔽していない」と信用してもらうには、生活状況と資産の詳細を客観的に証明する証拠書類の提出が求められます。
主なものは、以下のとおりです。
- 過去数ヶ月分の給与明細書
- 源泉徴収票
- 所有するすべての銀行口座の通帳のコピー
- 生命保険の解約返戻金計算書
- 退職金見込額証明書
- 不動産の登記事項証明書
弁護士のサポートを受けながら着実に準備を進めていけば、書類を揃えやすくなります。
まとめ

個人再生は、資産や生活基盤を守りながら、借金を整理できる有効な選択肢です。利用の際は、安定収入の証明や、清算価値保障原則といった複雑な条件をクリアする必要があります。また、履行テストや連帯保証人への影響など、乗り越えるべきハードルもいくつか存在します。
個人再生の手続きを失敗しないためには、債務整理の専門知識を持つ弁護士への相談を検討するのがおすすめです。
千代田中央法律事務所では、債務整理に関する相談を受け付けています。個人再生で再出発を切ろうと考えている人は、ぜひご相談ください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

