身内が株式を遺して亡くなった場合、「どの証券会社に口座があるのかわからない」「相続手続きは何から始めればよいのか」と悩む人もいるのではないでしょうか。
株式は預貯金と異なり、日々価格が変動する財産です。そのため、保有状況の確認や証券会社への連絡、相続人名義の証券口座への移管など、株式特有の手続きが必要です。
また、相続税の計算では株式の評価額を確認する必要があり、売却する場合は譲渡所得税が発生するケースもあります。NISA口座で保有していた株式についても、通常の株式とは異なります。
本記事では、株式相続について、基本的な手順・税金・分割方法・売却の流れ・注意点までわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
株式を相続するときの基本手順5ステップ

株式の相続手続きは、財産調査から名義変更まで順番に進めることが大切です。全体の流れを把握しておくことで、必要書類の準備や証券会社とのやり取りをスムーズに進めやすくなります。
ここでは、株式を相続するときの基本的な手順を解説します。
- 遺言書の有無と被相続人が保有していた株式を確認する
- 相続人を確定し、遺産分割方法を確認する
- 証券会社へ連絡して必要書類を確認する
- 株式を引き継ぐための証券口座を準備する
- 必要書類を提出して株式の相続手続きを行う
1. 遺言書の有無と被相続人が保有していた株式を確認する
株式の相続では、まず遺言書の有無と保有していた株式を確認しましょう。遺言書がある場合は、原則としてその内容に沿って相続手続きを進めます。証券会社からの郵便物や取引報告書のほか、スマートフォンやパソコンのメールなどで確認できます。
探しても見当たらない場合は、証券保管振替機構への照会も検討しましょう。まずは「どの証券会社で、どの株式を保有していたのか」を把握することが、相続手続きの出発点です。
2. 相続人を確定し、遺産分割方法を確認する
保有株式が把握できたら、次に相続人を確定し、株式をどのように分けるか話し合います。株式は現物分割・換価分割・代償分割など複数の分け方があるため、相続人全員で話し合い、合意することが大切です。
たとえば、相続人が3人いる場合、長男が株式をすべて取得し、その代わりに他の相続人へ現金を支払う代償分割があります。後のトラブルを防ぐためにも、合意内容は遺産分割協議書として書面に残しておきましょう。
3. 証券会社へ連絡して必要書類を確認する
必要書類や手続きの流れは証券会社ごとに異なるため、遺産分割の方向性が決まったら、証券会社へ連絡して相続手続きに必要な書類を確認しましょう。
一般的には、戸籍謄本や印鑑証明書、遺産分割協議書などの書類が求められます。また、相続税申告で残高証明書が必要になるケースもあるため、この段階で必要な手続きをまとめて確認しておくと効率的に進められます。
4. 株式を引き継ぐための証券口座を準備する
株式を引き継ぐには、相続人名義の証券口座が必要です。相続手続きでは、株式を受け取る口座情報の提出を求められるため、口座を持っていない場合は事前に開設しておきましょう。
証券会社によって手続き方法は異なりますが、口座開設には一定の時間がかかる場合もあります。必要になってから慌てないよう、早めに準備しておくと安心です。
5. 必要書類を提出して株式の相続手続きを行う
必要書類が揃ったら、証券会社へ提出して正式な相続手続きを行いましょう。書類に不備がなければ、故人名義の口座から相続人名義の口座へ株式が移管されます。
移管が完了すると、相続人自身の判断で保有や売却ができるようになります。手続きには数週間かかる場合もあるため、相続税の申告期限なども考慮しながら余裕を持って進めましょう。
株式を相続した際にかかる税金

株式を相続した場合、状況によって「相続税」と「譲渡所得に対する税金」の2種類が発生します。
相続しただけで必ず税金が発生するわけではありませんが、遺産総額が一定額を超える場合は相続税がかかる点に注意が必要です。また、相続した株式を売却して利益が出た場合は、譲渡所得に対する税金が発生することがあります。
ここでは、株式相続で関係する税金や利用できる特例について解説します。
相続税は株式の評価額をもとに計算される
相続税は、株式を含む遺産総額が基礎控除額を超える場合に課税されます。そのため、株式の評価額を正しく把握することが重要です。
上場株式は、相続開始日の終値やその月・前月・前々月の終値平均額などを比較し、最も低い価額を評価額として採用できます。
一方、非上場株式は、同族株主等に該当するかどうかや会社規模により、類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式などで評価します。上場株式より計算が複雑になりやすいため、税理士などの専門家へ確認することが重要です。
自社株を相続した場合は想定以上に評価額が高くなるケースもあるでしょう。相続税の負担を把握するためにも、評価方法を理解しておくことが大切です。
株式を売却すると譲渡所得税がかかる場合がある
相続した株式を売却して利益が発生した場合は、譲渡所得に対する税金がかかることがあります。
譲渡所得は、売却代金から被相続人の取得費や売却手数料などを差し引いて計算するのが一般的です。取得費が低い株式を高値で売却した場合は、譲渡所得が大きくなり税負担も増える可能性があります。
また、上場株式等の譲渡益には所得税・復興特別所得税・住民税が課税されます。売却を検討している場合は、事前に税負担の目安を確認しておくと安心です。
取得費加算の特例を利用できる場合がある
相続税を支払った人は、「取得費加算の特例」を利用できる場合があります。取得費加算の特例とは、支払った相続税の一部を株式の取得費に加算できる制度です。
取得費が増えることで譲渡所得が小さくなり、結果として売却時の税負担を軽減できます。たとえば、相続税を納付した後に株式を売却する場合、一定の要件を満たせば特例の対象になる可能性があります。
ただし、取得費加算の特例を利用するには、原則として、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに株式を売却する必要がある点に注意が必要です。
相続した株式を複数人で分ける際の3つの分割方法

株式を複数の相続人で分ける場合は、「現物分割」「換価分割」「代償分割」の3つの方法があります。
それぞれメリット・デメリットや向いているケースが異なるため、状況に応じて選ぶことが大切です。
| 分割方法 | 概要 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 株式をそのまま相続人で分ける | 売却せず保有を継続できる | 株価変動によって不公平感が生じる |
| 換価分割 | 株式を売却して現金で分ける | 公平に分配しやすい | 売却時に税金や手数料が発生する |
| 代償分割 | 一人が株式を取得し、他の相続人へ代償金を支払う | 株式を集約して保有できる | 代償金を支払う資金が必要になる |
現物分割|株式をそのまま分ける方法
現物分割とは、相続した株式を売却せず、そのまま相続人へ分配する方法です。手続きが比較的シンプルで、相続後も配当金や株主優待を受け取り続けられる点がメリットです。
たとえば、兄がA社株を相続し、妹がB社株を相続するケースが該当します。ただし、相続後に株価が変動すると取得した財産の価値に差が生じる可能性があります。
そのため、相続人全員が株式の保有を希望している場合や、公平性について十分に合意できている場合に向いている方法です。
現物分割とは?メリット・デメリットや流れ、費用、他の分割方法との違いを解説
換価分割|株式を売却して現金で分ける方法
換価分割とは、相続した株式を売却して現金化し、その売却代金を相続人で分配する方法です。現金で分けるため、相続人ごとの取得額を調整しやすく、公平に分配しやすい点が特徴です。
相続人が3人いる場合でも、株式を売却して得た代金を均等に分けられます。一方で、売却時には株価の変動リスクがあるほか、譲渡所得税が発生する場合もあります。
株式を保有する予定がない場合や、公平な分配を重視する場合に選ばれやすい方法です。
換価分割とは?メリットやデメリット、手続きの流れをわかりやすく解説
代償分割|一人が相続して他の相続人へ現金を支払う方法
代償分割とは、一人の相続人が株式を取得し、その代わりに他の相続人へ現金などを支払う方法です。株式をまとめて保有できるため、同族会社の株式や経営権を維持したい場合に利用されることがあります。
具体的には、長男が会社の株式をすべて相続し、次男や長女へ代償金を支払うケースが該当します。ただし、株式を取得する人には代償金を支払うための資金が必要です。
また、株式の評価額を巡って意見が分かれることもあります。事業承継を伴う相続などで活用される代表的な方法です。
代償分割とは?代償金の決め方・税金・支払えない場合の対応まで解説
相続した株式を売却する流れ

相続した株式を売却するには、名義変更から税務対応まで順番に手続きを進める必要があります。ここでは、相続した株式を売却する際の一般的な流れを解説します。
事前に流れを把握しておくことで、売却時のトラブルや申告漏れを防ぎやすいでしょう。
1. 証券口座への移管が完了しているか確認する
相続した株式を売却するには、故人名義のままでは株式を売却できないため、まず相続人名義の証券口座への移管が完了していることを確認する必要があります。
相続手続きでは、遺産分割協議書や戸籍謄本などの必要書類を証券会社へ提出し、株式を相続人名義の口座へ移管します。相続人が株式を取得することに合意していても、移管手続きが終わっていなければ売却注文は出せません。
売却をスムーズに進めるためにも、まずは名義変更が完了しているかを確認しましょう。
2. 証券会社で売却注文を行う
株式の移管が完了したら、証券会社を通じて売却注文を行います。売却するタイミングによって受け取れる金額が変わるため、慎重に判断することが大切です。
株式は日々価格が変動するため、相場状況によって売却額も変わります。業績発表や市場環境の変化によって、短期間で株価が上下することもあるでしょう。
売却後の代金は証券口座へ入金され、銀行口座へ出金できます。複数の相続人で分ける場合は、換価分割として売却代金を分配するケースもあります。
3. 売却益が出た場合の税金を確認する
株式を売却して利益が発生した場合は、税金がかかる可能性があります。そのため、売却前に税負担の目安を確認しておくことが重要です。
上場株式等の譲渡益には、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%の税率が適用されます。譲渡所得は、売却代金から被相続人の取得費や譲渡費用などを差し引いて計算されるのが一般的です。
また、相続税を納付した人は、一定の要件を満たすことで取得費加算の特例を利用できます。売却時の税負担を抑えられる可能性があるため、適用要件を確認しておきましょう。
4. 必要に応じて確定申告を行う
株式を売却した後は、必要に応じて確定申告を行いましょう。口座の種類や利用する特例によって、申告の要否が異なります。
たとえば、源泉徴収ありの特定口座で売却した場合は、原則として確定申告は不要です。一方で、一般口座で取引した場合や、取得費加算の特例を適用する場合は確定申告が必要です。
申告が必要な場合は、原則として売却した翌年の2月16日から3月15日までに手続きを行わなければいけません。申告漏れを防ぐためにも、売却後は口座区分や適用できる特例を確認しておきましょう。
株式を相続する際の注意点

株式の相続には、NISA口座特有のルールや相続税の申告期限など、預貯金とは異なる注意点があります。事前にポイントを理解しておくことで、税負担の増加や手続きの遅れを防げるでしょう。
ここでは、株式を相続する際に押さえておきたい注意点を解説します。
NISA口座の株式は非課税のまま引き継げない
NISA口座で保有していた株式は、相続人が非課税のまま引き継ぐことはできません。NISAの非課税制度は口座名義人本人にのみ適用される仕組みだからです。
被相続人がNISA口座で保有していた株式は、相続後に相続人名義の特定口座や一般口座へ移管されます。相続後に株価が上昇して売却益が発生した場合、その値上がり益には通常どおり税金がかかります。
一方で、取得価額は被相続人の死亡日時点の時価で引き継がれるため、それ以前の値上がり分に課税されるわけではありません。相続後は通常の課税口座で管理されるため、売却時の税金も踏まえて保有や売却を検討しましょう。
株式の相続手続きを放置すると売買・換金ができなくなる
株式の相続手続きを放置すると売買・換金ができなくなるため、できるだけ早めに手続きを進めましょう。
被相続人の死亡が証券会社に知られると、口座は凍結され、株式の売買や出金などの手続きができなくなります。株式は日々価格が変動するため、手続きが長引くほど相場変動の影響を受ける可能性もあります。
相続手続きを進めている間に株価が大きく下落すれば、相続財産の価値が減少するリスクもあるでしょう。また、遺産分割協議が終わる前に、一部の相続人が独断で株式を処分するとトラブルの原因になりかねません。円滑な相続のためにも、早期の手続きが重要です。
証券会社が不明な場合は証券保管振替機構へ照会する
近年は電子交付が主流となり、取引報告書や残高報告書が郵送されないケースも増えています。そのため、遺品整理をしても証券口座が見つからないこともあるでしょう。
被相続人が取引していた証券会社が不明な場合、まずは通帳の入出金履歴やメール、スマートフォンなどを確認しましょう。それでもわからない場合は、証券保管振替機構へ登録済加入者情報の開示請求を行うことで、取引のある証券会社を調査できます。
相続税の申告期限を厳守する
株式を含む相続財産が相続税の課税対象となる場合は、申告期限に注意しなければなりません。
相続税の申告・納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。また、相続税を納付した人が利用できる取得費加算の特例には期限があります。
一定の要件を満たした上で、相続税の申告期限の翌日から3年以内に株式を売却する必要があるため、売却を検討している場合は早めに準備を進めることが大切です。
株式の相続に関するよくある質問

株式の相続では、名義変更の期限や相続放棄の影響、売却の必要性などについて疑問を持つ人も少なくありません。あらかじめポイントを理解しておくことで、手続きの遅れや思わぬトラブルを防ぎやすくなります。
ここでは、株式相続に関するよくある質問を解説します。
Q. 相続した株式はいつまでに名義変更する必要がある?
Q. 株式を相続放棄した場合はどうなる?
Q. 株式を相続しても必ずしも売却する必要はない?
Q. 相続した株式はいつまでに名義変更する必要がある?
A. 株式の名義変更に法律上の期限はありません。しかし、相続手続きを円滑に進めるためにも、できるだけ早く対応することが大切です。故人名義のままでは株式の売却や移管などの手続きができません。
たとえば、相続後に株価が大きく下落しても、名義変更が完了していなければ売却できず、損失が拡大する可能性があります。また、相続税を納付した人が利用できる「取得費加算の特例」には期限があります。
売却を検討している場合は、特例の適用要件も確認しながら、早めに名義変更を進めるとよいでしょう。
Q. 株式を相続放棄した場合はどうなる?
A. 相続放棄をすると、株式を含むすべての相続財産を引き継ぐことができません。相続放棄は、特定の財産だけを放棄する制度ではないため、借金などの負債だけでなく、株式や預貯金、不動産などのプラスの財産も受け取れなくなります。
被相続人に多額の借金がある場合は、相続放棄によって返済義務を負わずに済みます。一方で、「株式はいらないが預貯金は受け取りたい」といった選択はできません。
相続放棄は家庭裁判所で手続きを行い、原則として一度受理されると撤回できないため、財産内容を十分に確認した上で判断することが重要です。
Q. 株式を相続しても必ずしも売却する必要はない?
A. 相続した株式は、必ずしも売却する必要はありません。名義変更後は、自分の判断で保有を続けることも可能です。株式には売却益だけでなく、配当金や株主優待を受け取れるメリットがあるためです。
たとえば、業績が安定している企業の株式であれば、長期保有によって継続的な配当収入を得られる場合があります。一方で、株価は常に変動するため、保有を続けることで資産価値が下落するリスクもあります。
相続した株式の内容や将来の資金計画を踏まえながら、保有と売却のどちらが適しているか検討することが大切です。
まとめ

株式の相続では、まず被相続人が保有していた株式や証券口座を確認し、相続人を確定した上で、証券会社に必要書類を提出して手続きを進めます。
株式は価格が変動する財産であるため、相続人同士で分け方を決める際には、現物分割・換価分割・代償分割のどれを選ぶか慎重に検討することが大切です。また、相続税の申告期限や、売却時にかかる譲渡所得税にも注意が必要です。
株式の相続手続きや分割方法で悩んでいる場合は、早めに専門家へ相談し、状況に合った方法で進めましょう。
千代田中央法律事務所では、株式を含む相続問題に関するご相談を受け付けています。相続人同士の話し合いや遺産分割でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

