M&A戦略に関する知識が曖昧なまま進めようとしていませんか?明確な方向性を欠いたM&Aは、想定していた金額での売却ができなかったり、PMI(統合)に失敗したりするなどのリスクを招きかねません。
本記事では、M&A戦略の立案から実行までの全プロセスを体系的に解説します。成長戦略との整合性を保ちながら、M&Aを成功させるロジカルなフレームワークも紹介しています。
M&A戦略を具体的に立案し、着実に実行することで、成功に近づくことができるため、本記事で解説するステップや戦略例などをぜひ参考にしてみてください。
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M&A戦略とは?

M&A戦略とは、単なる会社を買う・売るための計画ではなく、自社の成長ビジョンを実現するための設計図です。この設計図が曖昧なままだと、想定価格に届かない売却や統合の失敗といったリスクが高まり、企業価値を損ねる原因になります。
M&Aを成功させるためには、「戦略が先・取引は後」という原則に基づき、まずはなぜM&Aを行うのか、何を得たいのか、そしてどう成長につなげるのかを明確にすることが重要です。
M&Aが失敗する主な要因は、魅力的な案件を見つけてから慌てて戦略を立てる取引主導型の進め方によるものです。
全社の方向性に沿って、残す・伸ばす・手放すを整理し、買う(M&A)・自社でつくる・提携するという3つの選択肢を比較検討することが、成功への第一歩となります。
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M&A戦略を策定する目的

M&A戦略を策定する目的は、会社を売ることだけではなく、自社の成長戦略を実現するための道筋を明確にすることです。
ここでは、M&A戦略を策定する4つの目的を具体的に解説します。
1. 自社の成長戦略に基づいた売却目的を明確にする
売り手にとってのM&A戦略は、会社を売って資金を得る計画だけではなく、事業の選択と集中によって次の成長を生み出す経営戦略でもあります。
たとえば、ノンコア事業の売却や事業承継なども、全体の成長方針の中で売却目的を明確にすることが出発点です。
目的が曖昧なままでは、価格だけにとらわれて交渉が進み、従業員やブランドの将来といった大切な価値を見失うおそれがあります。
一方で、目的が明確であれば、どのような相手に・どのような条件で・何を引き継ぐのかという判断軸がブレにくくなります。重要なのは、売却後の自社がどう成長するかというビジョンを具体的に描き、会社全体の未来を見据えたM&Aを実現することです。
2. 買い手企業の事業戦略・財務戦略との整合性を見極める
売り手企業にとって、買い手企業の事業戦略や財務戦略との整合性を見極めることは重要です。どれほど高い金額を提示されても、買い手の方向性が自社の理念や事業の将来像とかけ離れていれば、統合後に従業員の不安や事業の停滞を招くおそれがあります。
たとえば、買い手が短期的な利益追求型なのか、長期的に事業を育てるタイプなのかによって、交渉方針や譲渡条件は変わります。
また、財務体質や資金力、過去のM&A実績を確認することで、買収後の安定性も判断できるでしょう。
売り手は、どの企業に託すのが自社の未来にもっともプラスになるかという視点を持ち、価格だけでなく理念・方針・財務の3点を基準に相手を選ぶことが大切です。
3. 売り手としての判断軸と交渉方針を整理する
売り手は交渉をはじめる前に、譲れない条件と交渉できる条件を整理し、明確な判断基準を持つことが重要です。価格だけでなく、従業員の雇用やブランド名の継続、経営者自身の関与期間など、数値化できない要素も含めて検討する必要があります。
M&Aの交渉は心理的なプレッシャーがあり、基準が曖昧だと相手のペースに流されて本来守るべき条件を譲ってしまうおそれがあります。とくに事業承継を目的とする中小企業の経営者にとって、事前の整理が後悔しないM&Aを実現する鍵です。
たとえば、以下のような3つの軸を設定することで、信頼できる買い手の選定とM&Aの成功につながるでしょう。
- 雇用の維持
- 社名の継続
- 適正な価格
価格・雇用・文化・技術など、自社にとっての優先順位を社内で共有しておくことが、交渉を有利に進める武器になります。
4. 企業価値を最大化するためのKPIを設定する
M&Aの成功は、契約を結ぶことではなく、その投資が長期的に企業価値を高めたかどうかで判断されます。そのためには、検討の初期段階で成功とは何かを明確にし、客観的な指標(KPI)を設定して関係者全員で共有することが欠かせません。
明確なKPIは、買収価格の妥当性を見極める基準となるだけでなく、統合(PMI)チームの目標設定や進捗管理にも役立ちます。
たとえば、ROIC(投資したお金の収益性)やFCF(自由に使える資金の増減)などを基準に、投資が本当に成果を上げているかを判断することが重要です。
短期的な利益ではなく、ROICやFCFといった資本効率を中心としたKPIを設定することで、M&Aを持続的な企業成長につなげられるでしょう。
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M&A戦略を策定する5つのステップ

M&A戦略を策定する際は、以下の手順で進めていきます。
- ステップ1:自社の事業価値と課題を分析する
- ステップ2:市場調査を行い予算や時期を想定する
- ステップ3:売却の目的と優先事項を明確にする
- ステップ4:M&A戦略を具体化する
- ステップ5:買い手側へのアプローチを考える
それぞれ具体的な手順内容を確認しましょう。
ステップ1:自社の事業価値と課題を分析する
M&A戦略を立てる第一歩は、自社を客観的に理解することです。まず、SWOT分析と呼ばれる手法で、以下の4つを整理します。
- Strength(自社の強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(市場のチャンス)
- Threat(リスク)
この分析により、現在の事業と将来のビジョンとのギャップが明確になります。たとえば、製造技術には強みはあるものの、新市場への販路がないことがわかれば、どのような企業と組めば成長できるかという具体的な方向性が見えてきます。
ステップ2:市場調査を行い予算や時期を想定する
M&A戦略の第2ステップでは、自社の課題を解決するための市場や業界を調べることが重要です。
まず、業界再編の動きや成長分野、競合他社のM&A事例などを幅広く調査し、どの分野にチャンスがあるのかを把握します。そのうえで、実現可能な予算と実行のタイミングを具体的に見立てていきます。
また、同業他社の買収金額や評価の目安を調べておくと、非現実的な計画を避けられ、必要な資金の見通しも立てやすくなります。
業界レポートやM&Aデータを活用して市場全体の動きを把握し、自社の財務状況と照らし合わせることが、戦略を机上の空論で終わらせないための鍵です。
ステップ3:売却の目的と優先事項を明確にする
「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確に言語化することも、M&Aを進めるうえで重要です。目的を誰にでも説明できるレベルまで具体化することで、戦略に一貫性が生まれます。
たとえば、技術の獲得が最優先なら、重要な技術者の継続雇用を条件にすることが、価格交渉以上に重要です。一方、後継者問題を抱える企業であれば、従業員の雇用維持や地域への貢献を目的に据え、投資ファンドよりも事業を引き継いでくれる企業を選ぶ方が望ましい場合もあります。
まずは自社のM&Aが攻めの成長なのか、守りの承継なのかを整理し、目的を軸に戦略を描くことが成功のポイントです。
ステップ4:M&A戦略を具体化する
ここまでの分析や目的を整理したら、それらをM&A実行計画書としてまとめましょう。この計画書には、以下のようなことを明確に書き出します。
- 売却・買収の対象となる企業の条件(売上規模や技術力など)
- 期待できる効果(売上アップやコスト削減など)
- 想定されるリスク(人材流出や統合コスト増など)
M&A実行計画書は、M&Aの道しるべのようなもので、関係者全員が同じ方向を向いて進むための指針になります。
目的や条件、期待する効果などを計画書にまとめることで、買い手候補を効率的に選び、迷いのない判断ができるでしょう。
ステップ5:買い手側へのアプローチを考える
最後のステップとして、M&Aの候補企業にアプローチをする際は、優先順位を決め、初回接触から面談までの流れを丁寧に設計することが重要です。
とくに、相手が売却を検討していない場合は、最初の接触が成功に影響します。準備不足の打診は不信感を招き、交渉の機会を失うおそれがあるからです。
安全で効果的な方法は、M&Aアドバイザーを介した段階的な進め方です。まず匿名の概要書で関心を確認し、興味があれば秘密保持契約(NDA)を締結、その後詳細資料を共有し、経営者同士の面談へ進みます。
このプロセスを丁寧に踏むことで、情報漏えいを防ぎながら信頼関係を築けるため、建設的な交渉につながります。
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M&A戦略を策定するために役立つフレームワーク

M&A戦略を立てる際には、どの方向に成長するのか、自社の強みをどう生かすのか、競争の中でどう勝つのかを整理することが重要です。
ここでは、戦略の方向性を定めるために有効な3つの代表的なフレームワークを紹介します。
フレームワークを理解することで、自社に合ったM&Aの形を具体的に描けるようになるでしょう。
1. アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスは、自社がどの方向に成長を目指すのかを整理するための考え方です。「製品」と「市場」という2つの軸で整理し、成長の手段を以下の4つに分類します。
- 既存市場でのシェア拡大(市場浸透)
- 新しい地域や顧客層への進出(新市場開拓)
- 新しい商品・サービスの展開(新製品開発)
- まったく別の分野への挑戦(多角化)
上記のように整理することで、なぜM&Aが必要なのか、どのような企業を狙うべきかが明確になります。
ターゲット選定をはじめる前に、アンゾフの成長マトリクスで自社の成長の道筋を整理しておくことが重要です。
2. バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、事業を、調達・製造・販売・サービスなどの工程に分けて見直し、M&Aによってどの部分で相乗効果を生み出せるかを見極める方法です。
販売チャンネルを共有できそうといった曖昧な期待を、どの工程でどれだけ売上や利益が伸びるかという具体的な計画に落とし込むことが可能です。
たとえば食品メーカーが売却を検討する場合、原料の共同仕入れによるコスト削減、自社の販売網活用による販路拡大、相手企業の技術力活用による新商品開発などが考えられます。
自社と相手の工程を比較し、どこを結び、何を効率化するかを整理することが成功の鍵となるでしょう。
3. ポーターの競争優位の戦略
ポーターの競争優位の戦略は、企業がどのような強みで競争に勝つのかを整理するための考え方です。基本戦略は、以下の3つです。
- 低コストで勝つ(コストリーダーシップ)
- 品質やブランドで差をつける(差別化)
- 特定の分野に集中する(集中戦略)
M&Aではこの分析を使うことで、自社と相手企業の考え方や事業モデルが合っているかを確認できます。
確認不足の状態で慌ててM&Aを進めても、低価格重視の企業と品質重視の企業が統合すれば、組織文化や方針の違いから衝突が起きやすく、ブランド価値を失う危険があります。
買い手候補を評価する際は、どの戦略を軸にしている企業なのかを見極め、統合後の方針まで想定しておくことが、M&Aを成功に導くポイントです。
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M&A戦略の具体例

M&A戦略には、自社の課題を解決するためにどのような方法を取るかによって、多様なアプローチがあります。
単に自社を売るだけでなく、事業の一部を切り出して強化したり、信頼できるパートナーに承継したりといった選択も可能です。
ここでは、目的や状況に応じて活用できる5つの代表的なM&A戦略を紹介します。
1. スピンオフ(事業分離)を戦略的に活用する
スピンオフとは、会社の一部門を切り離して新しい会社として独立させる方法です。親会社は本業に経営資源を集中でき、分離した会社は自由な意思決定でスピーディーに事業を展開できます。
この方法は、どちらの企業にとっても成長のチャンスを広げる攻めの経営戦略です。たとえば、親会社は資金や人材を成長分野に重点投資でき、スピンオフした会社は独自の方針で経営や採用を進められます。
結果として、親会社の中では目立たなかった事業が市場で正当に評価され、急成長につながる可能性もあります。
自社の中に、本体とは異なる成長スピードやビジネスモデルを持つ事業がある場合、スピンオフはその潜在力を引き出す有力な手段です。
2. 第三者への事業承継を実施する
後継者がいない中小企業にとって、第三者へのM&Aによる事業承継は、事業や技術、従業員の雇用を守りながら企業を存続させる現実的な選択肢です。
親族や社員への承継が難しくても、より大きな企業に経営を引き継ぐことで、資金面の安定や販路拡大が可能になります。第三者への継承は、オーナーにとって安心して引退できるだけでなく、地域経済や日本のものづくりを支える重要な役割も果たします。
たとえば、独自技術を持つ町工場が大手企業へ株式を譲渡するケースでは、雇用が守られ、買い手は貴重な技術と人材を獲得できるでしょう。
事業承継型M&Aでは、価格よりも従業員や事業の未来を託せる相手かという視点が重要なため、早い段階から専門家に相談し、信頼できる相手を見極めることが重要です。
3. MBO(経営陣による買収)を活用して独立する
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、会社の経営陣が自ら資金を出して、親会社や株主から事業や株式を買い取り、独立を目指す手法です。
親会社の方針と事業部の方向性が合わない場合や、外部の株主に左右されず長期的な経営を進めたい場合に有効になるでしょう。
上場企業の一部門などでは、株価や短期的な業績を気にせず、思い切った投資や改革に踏み切れるのが利点です。また、経営を熟知した人が引き継ぐため、スムーズな独立と迅速な意思決定が可能になります。
たとえば、大企業の一部門の役員が投資ファンドと協力してMBOを実施し、独立後に研究開発や海外展開を進めれば、事業価値を高められる可能性があります。
自社の将来に強い確信があるが、株主構造が制約になっていると感じる経営陣にとって、MBOは有力な選択肢です。
4. 業務提携を兼ねた戦略的売却を行う
一部の株式を売却し、資本業務提携を結ぶ方法は、経営権を保ちながら成長を加速させる柔軟なM&A戦略です。大手企業の販路・技術・ブランド力を活用しつつ、自社の独立性を維持できるため、スタートアップやオーナー企業に向いています。
買い手側にとっても、フル買収のリスクを避けながら有望な技術や事業に早期に関われるメリットがあり、双方にとってWin-Winの関係を築きやすいのが特徴です。
たとえば、AI技術を持つ企業が自動車メーカーに株式の一部を譲渡し、開発資金を得ながら走行データへのアクセスを確保するケースなどが挙げられます。
この手法を成功させるためには、提携後の役割分担や意思決定ルールを契約時に明確化しておくことがポイントです。
5. 入札方式で最適な買い手を選定する
入札(オークション)方式は、複数の買い手候補に同時に声をかけて競争環境をつくり出すことで、よりよい条件を引き出す方法です。
1社のみと交渉する場合に比べ、競争原理が働くため、売却価格の上昇や雇用維持などの条件を有利に進めやすくなります。さらに、複数社と並行して話を進めることで、交渉が途中で止まっても他の候補に切り替えられるのも安心です。
たとえば業績好調なSaaS企業が入札方式を採用し、一次入札で広く意向を確認、二次入札で数社に絞り、最終的にもっとも条件のよい買い手を選ぶケースがあります。
自社の成長性や独自性が高く、複数の買い手が関心を示す売り手優位の状況では、この入札(オークション)方式が効果的です。
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M&A戦略を成功に導く7つのポイント

M&A戦略を成功に導くためには、以下の7つのポイントを意識することが大切です。
- 経営トップが明確に方向性を示す
- 現実的な成果を見積もる
- 必要なリソースと制約を把握する
- 関係者の納得を得る
- 人と組織の調和を大切にする
- 専門家の力を効果的に活用する
- M&A実行後も定期的に修正・改善を続ける
とくに意識するべきポイントや具体的な手順を紹介します。
1. 経営トップが明確に方向性を示す
M&Aを成功させるためには、経営トップの明確な意思とリーダーシップが欠かせません。CEOや取締役会が強い覚悟を持ってビジョンを示し、M&Aを一部門の業務ではなく全社の最重要課題として推進することが重要です。
トップの関与が弱いと、統合(PMI)の段階で部門間の対立や意思決定の遅れが生じ、計画が頓挫するリスクが高まります。
なぜこのM&Aを行うのか、どのような未来を目指すのかを、経営トップが自らの言葉で繰り返し発信し続けることが、社内の理解と協力を生み出すうえで大切です。
経営トップが自らの言葉でM&Aの目的や将来像を語ることで、従業員の理解と協力を得やすくなり、組織全体を同じ方向に導きやすくなります。
2. 現実的な成果を見積もる
M&A戦略で多い失敗要因のひとつが、シナジー効果を楽観的に見積もりすぎることです。
M&Aに成功する企業は、売上やコスト削減の効果を実現可能性確率で加重して評価する慎重な姿勢を取ります。とくに売上拡大のようなシナジーは実現が難しく、希望的観測に陥りやすい領域です。
たとえば、拠点統合など実現しやすいコスト削減を基準にし、不確実な売上シナジーは控えめに評価します。
さらに、ベース・ベスト・ワーストの3つのシナリオを用意し、各効果に実現確率を割り当てて分析することが有効です。こうして算出した上限価格こそ、感情的な判断を防ぎ、冷静な意思決定を支える重要な基準となります。
3. 必要なリソースと制約を把握する
M&Aは資金だけでなく、経営陣の時間と人材を大きく消耗するプロジェクトです。本業を維持しながらM&Aを進めるには、十分な人員・時間・資金があるかを事前に見極める必要があります。
事前の判断を誤ると、優秀な社員がM&A関連の業務に時間を取られ、既存事業の業績が悪化するリスクがあります。リソース不足のまま大型売却に踏み切ると、売却後の統合作業に人材を割かれ、主力事業の品質が低下するおそれもあるでしょう。
さらに、借入金の制約や財務指標も、実現できるM&Aの規模を左右します。実行前には社内リソースの内部体制の精査を行い、誰が・いつまで・どの程度関与するのかを明確にすることが不可欠です。
4. 関係者の納得を得る
M&Aを成功に導くには、従業員・顧客・取引先・金融機関といった幅広い関係者の理解と信頼を得ることが欠かせません。明確な情報発信がないまま進めると、不安や憶測が広がり、人材流出や顧客離れといった深刻な損失につながるからです。
とくに統合期では、トップが自らメッセージを発信し、M&Aの目的や将来像を具体的に伝えることが重要です。
経営トップ自らがM&Aの目的や今後の方向性を伝えることで、社内外の不安を和らげ、理解を得やすくなります。統合を円滑に進めるためにも、組織全体の一体感を高める発信やコミュニケーションが欠かせません。
5. 人と組織の調和を大切にする
M&Aの失敗原因のひとつに、企業文化の衝突があります。異なる価値観や働き方を持つ組織をひとつにまとめるのは、数字の調整以上に難しい課題です。
そのため、財務や法務の調査(デューデリジェンス)と同じくらい、事前の文化調査と統合後の文化設計が欠かせません。
たとえば、フラットな組織のスタートアップを階層的な組織大企業に売却した際、承認プロセスの煩雑さや意思決定のスピードに不満を感じるケースが挙げられます。
このような問題を防ぐには、M&A前に組織の価値観や働き方の違いを可視化し、目指すべき統合後の姿を明確にすることが重要です。
6. 専門家の力を効果的に活用する
M&Aは、法務・会計・税務・財務など多岐にわたる専門知識が必要な総合プロジェクトです。自社だけですべてを行おうとするのは現実的ではありません。
M&Aアドバイザー、弁護士、公認会計士といった外部専門家の力を借りることをコストではなく、リスク回避の投資として捉えることが大切です。専門家は、契約や税務の落とし穴を熟知し、数多くの案件で培った交渉ノウハウと客観的な視点を提供してくれます。
自社のビジネスを理解した社内チームと、M&Aプロセスを熟知した外部専門家による混成チームで取り組むことが理想です。
M&A戦略を策定する以前から、信頼できる専門家とのネットワークを築き、初期段階から関与してもらうことで、M&Aの成功確率を大きく高められます。
7. M&A実行後も定期的に修正・改善を続ける
M&Aは、契約の締結で終わるものではなく、統合後の運営からが真のスタートです。
当初設定したKPI(目標指標)を定期的に確認し、想定と違う結果が出た場合は、迅速に軌道修正する柔軟さが必要になってきます。完璧な統合計画は存在せず、市場環境や組織の変化に合わせて調整を重ねることが成功のポイントです。
計画通りに進めることを目的にすると、現実とのズレを見逃して失敗を招くおそれがあります。週単位でシナジー効果をモニタリングし、課題を即時に修正することが重要です。
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まとめ

本記事では、M&A戦略の立案から実行までの流れを、目的設定・5つの策定ステップ・実践的フレームワーク・成功の7つのポイントという4つの観点から整理して解説しました。
M&Aを成功に導くためには、事前の徹底した戦略策定が欠かせません。全社戦略との一貫性を保ち、定量・定性の両面から成果を測定し続けることで、M&Aは単なる取引ではなく持続的成長を実現する経営戦略の一部となります。
まずは自社の事業価値と課題を整理し、戦略的なM&Aの第一歩を踏み出しましょう。
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京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。
