深刻な経済状況から「破産宣告」という選択肢が頭をよぎることがあるかもしれません。
その言葉が持つ重みや将来への不安、手続きの複雑さに、どこから手を付ければよいかわからなくなっていませんか。
そのようなときこそ、不確かな情報に惑わされることなく、正確な知識を得ることが経済的再建への第一歩となります。
本記事では破産宣告の言葉の意味や、自己破産制度について基礎から解説します。メリット・デメリット、必要となる費用と期間の目安などをまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
破産宣告とは
破産宣告は、個人がおこなう自己破産手続の開始決定を指す言葉です。
以前は、破産宣告という言葉が用いられていましたが、2005年の破産法改正によって「破産手続開始決定」に変わりました。
この変更には、破産を個人の失敗に対する罰ではなく、経済的に立ち直るための再スタートと位置づける目的があります。
破産手続開始決定は、手続きのスタートラインに立ったという合図であり、この時点で借金の返済義務がなくなるわけではありません。
すべての手続きを終え、裁判所から免責許可が認められることで、法的な支払い義務から解放されます。
破産宣告によるメリット
自己破産には、人生を再スタートさせるための大きなメリットが期待できます。
ここでは以下2つのメリットについて解説します。
それぞれを詳しくみていきましょう。
1. 借金の返済義務がなくなる
自己破産における主なメリットは、裁判所から免責許可決定を受けることで、税金などの一部の債務を除き、原則として借金の支払い義務が法的に免除される点です。
返済に追われる毎日から解放され、収入を生活の再建や将来のために使えるようになることは、経済的にも精神的にも大きな転換点となり得ます。
破産法の目的である「債務者の経済生活の再生」が、この免責によって実現されます。
2. 債権者からの取り立てが止まる
自己破産のもうひとつのメリットとして、弁護士などの専門家に手続きを依頼した時点で、債権者からの督促や取り立てが即座に止まることがあげられます。
これは、多くの方にとって即効性が期待できる精神的救済となるでしょう。
弁護士が依頼を受けると、直ちに各債権者へ受任通知という書面を送付します。
この通知を受け取った貸金業者(債権者)は、以後、正当な理由なく債務者本人に直接連絡したり、取り立てをおこなったりすることができません。
督促の電話や手紙、訪問に悩まされている場合は、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
破産宣告後の注意点・デメリット
自己破産は強力な救済制度ですが、その一方で社会生活に一定の影響を及ぼすデメリットも存在します。
主な注意点やデメリットは、以下のとおりです。
これらの注意点を事前に把握し、納得したうえで手続きに進むことが求められます。
保証人がいる場合はその人が返済義務を負うことになる
自己破産における注意点として、保証人への影響があげられます。
本人が自己破産によって借金の支払い義務を免れても、保証人や連帯保証人の責任はなくなりません。
主債務者の免責と同時に、返済責任が保証人に移行するのが一般的であり、債権者は保証人に残額の一括返済を求める可能性があります。
最悪の場合、保証人自身も支払いができず、連鎖的に自己破産を検討することになるかもしれません。
自己破産を選択する場合は、事前に保証人に状況を説明し、保証人自身も法律の専門家に相談するよう促すことが望ましいでしょう。
財産が換価処分される(一部の財産を除く)
自己破産をすると、申立人が所有する一定以上の価値を持つ財産は、原則として処分(換価)の対象となります。
これは、破産手続で裁判所が選任する弁護士である破産管財人によって財産が売却され、その代金が債権者に公平に配当されるためです。
処分の対象となりうる主な財産は、以下のとおりです。
- 不動産(土地、建物)
- 評価額が20万円を超える自動車
- 99万円を超える現金
- 20万円を超える預貯金
- 解約返戻金が見込まれる生命保険
- 株式などの有価証券
すべての財産が換価処分されるわけではなく、生活の再建に必要な最低限の財産は自由財産として手元に残すことが認められています。
なお、これらは法律で定められた絶対的な金額ではなく、多くの裁判所で採用されている実務上の目安です。
個別の事案や裁判所の判断によって、運用が異なる場合があることを理解しておきましょう。
ブラックリストへ登録される
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報が登録されます。
実は、ブラックリストという名称のリストは存在しません。一般的にわかりやすくするために、信用情報機関に情報が登録された状態のことを、「ブラックリストに登録された」と表現するケースが多くあります。
信用情報機関の種類と登録期間の目安は、以下のとおりです。
| 信用情報機関 | 主な加盟金融機関 | 登録期間の目安 |
|---|---|---|
| CIC | クレジットカード会社、信販会社 | 免責許可決定から約5年 |
| JICC | 消費者金融会社 | 免責許可決定から約5年 |
| KSC | 銀行、信用金庫 | 破産手続開始決定から約7年 |
この情報が登録されている期間は、新たな借入や各種ローンの契約、クレジットカードの新規発行は、事実上難しくなります。
事故情報が消えた後は、少額の利用と確実な返済を繰り返し、クレジットヒストリーを積み重ねることで、信用を少しずつ回復させることが可能です。
官報に氏名や住所が掲載される
自己破産をすると、法律の規定にもとづき、氏名と住所が国の機関紙である官報に掲載されます。
破産手続開始決定時と免責許可決定時の計2回掲載されることになっており、これは、すべての利害関係者に対して、破産手続が進行中であることを知らせることが目的です。
官報に掲載されることで事実が公になるため、周囲に自己破産したことを知られるかもしれません。
ただし、一般の方が日常的に官報を読むことはあまり多いとはいえないでしょう。
特定の職業や資格が一時的に制限される
自己破産の手続き期間中は、一部の職業や資格に就くことが法律で制限されます。
制限を受ける主な職業・資格は以下のとおりです。
| カテゴリ | 主な職業・資格の例 |
|---|---|
| 士業 | 弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士など |
| 金融関連 | 貸金業者、生命保険募集人、金融商品取引業者、質屋など |
| その他 | 会社の取締役・監査役・執行役、警備員、旅行業者、建設業者(役員の場合)など |
留意すべきは、この制限が永続的なものではなく、破産手続期間中のみの一時的なものであるという点です。
制限される期間は一般的に3~6か月程度ですが、事案によっては1年以上かかることもあります。
制限対象の職業に就いている場合は、雇用主と相談し、資格を必要としない部署への一時的な異動や、復権後の再雇用を前提とした一時的な退職などの対策を検討することが求められます。
破産宣告しても消えない借金の存在
自己破産で免責が認められても、以下のような種類の借金については返済義務が残ります。
なお、自己破産で免責許可を得ても支払い義務がなくならない債権のことを、非免責債権と呼びます。
自分の借金のうち、どれが非免責債権に分類されるか、あらかじめ確認しておきましょう。
滞納している税金や国民健康保険料など
税金や社会保険料といった公的な債務は、自己破産をしても支払い義務が免除されない代表的な債務です。
これらは国の財政基盤を支えるものであり、個人の経済状況よりも公益性が優先されるため、非免責債権とされています。
具体的には、以下のようなものが該当します。
- 所得税、住民税
- 固定資産税、自動車税
- 国民健康保険料、国民年金保険料
- 下水道料金
とくに注意すべきは、これらの債権を持つ行政機関は、裁判手続きを経ずに給与や財産を差し押さえる自力執行権を持っている点です。
免責を受けた後でも、滞納していた住民税の支払い義務は残り、引き続き督促を受けることになります。
また、延滞金や延滞税は利率が高く設定されているため、放置すると債務が急速に増加する点にも注意が必要です。
養育費や不法行為による損害賠償など
税金などの公的債務以外にも、その性質上、支払い義務が免除されない非免責債権が存在します。
非免責債権の例は、以下のとおりです。
| 非免責債権の種類 | 具体的な例 |
|---|---|
| 扶養義務に関する債務 | 離婚後の子どもの養育費、夫婦間の婚姻費用(生活費)など |
| 悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償 | 詐欺、横領、暴行による傷害などに対する賠償金 |
| 生命・身体を害する不法行為にもとづく損害賠償 | 飲酒運転や無免許運転による人身事故の賠償金など |
これらの債務を抱えている場合は、自己破産後も返済計画を立てる必要があります。どの債務が免責されるかは複雑な場合もあるため、専門家に相談することが賢明です。
破産宣告(自己破産)できる人の条件
自己破産は誰でも無条件に利用できるわけではなく、法律で定められたいくつかの要件を満たす必要があります。
主な条件として以下の3点があげられます。
それぞれを詳しくみていきましょう。
1. 収入や財産が足りず、継続的な返済が不可能であること
自己破産が認められるための基本的な条件は、申立人が支払不能の状態にあることです。
支払不能とは、単に一時的にお金が足りない状態ではありません。破産法第2条11項で、以下のように定義されています。
| 債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態 |
具体的に、裁判所が支払不能かどうかを判断する際には、以下の3つのポイントを客観的に判断します。
- 支払能力を欠いていること
- 弁済期にある債務を返済できないこと
- 返済できない状態が一般的かつ継続的であること
ご自身の収入から生活費を引いた返済可能額で、36ヶ月以内にすべての借金を返済できる見込みがなければ、支払不能と判断される可能性が高いでしょう。
2. ギャンブルや財産隠しなど、免責が許可されない問題がないこと
自己破産による借金の免除を受けるためには、原則として免責不許可事由に該当しないことが求められます。
主な免責不許可事由は、以下のとおりです。
| 免責不許可事由 | 具体的な内容と注意点 |
|---|---|
| 浪費やギャンブル | 以下の行為で財産を失った場合 ・収入に見合わない高価な買い物 ・パチンコ競馬などの賭博 ・FX ・仮想通貨などの投機的行為 |
| 財産隠し | 預貯金や不動産、生命保険などの財産を意図的に申告しなかったり、破産申立ての直前に家族や知人の名義に変更したりする行為 |
| 偏頗弁済(へんぱべんさい) | 友人や親族など、特定の債権者にだけ優先的に返済する行為 |
| 詐術による信用取引 | 収入や他の借金について嘘をつき、返済能力がないことを隠して新たにお金を借り入れる行為 |
| 虚偽の申告 | 裁判所に対して、偽造した書類を提出したり、事実と異なる説明をおこなったりする行為 |
| 7年以内の再度の免責 | 前回の自己破産で免責許可決定が確定した日から、7年以内に再度、免責の申立てをおこなうこと |
ただし、これらの事由に該当する場合でも、裁判官の裁量によって免責が許可される裁量免責という制度があります。
決して隠したり虚偽の申告をしたりせず、弁護士にすべて正直に伝えることが、円滑な手続き進行の鍵となります。
隠しごとをしても、裁判所や破産管財人の調査で発覚する可能性が高く、その場合はさらに不利になるため注意しましょう。
3. 免責対象となる借金が存在すること
自己破産の申立てをおこなうためには、そもそも免責の対象となる借金が存在することが前提です。
免責の対象となる典型的な債務には、消費者金融やクレジットカード会社からの借入、銀行のカードローン、友人・知人からの個人的な借金などがあります。
一方で、前述した税金や養育費といった非免責債権しか存在しない場合、自己破産を申し立てても実質的なメリットがほとんどありません。
借金の内訳を詳細に把握し、免責される債務を整理したうえで、手続きを検討することが大切です。
破産宣告の手続きの流れと費用
自己破産を現実的に検討する際には、具体的な手続きの流れや必要な費用などを把握しておきましょう。
ここでは、以下3つにわけて解説します。
それぞれを詳しくみていきましょう。
1. 相談から免責許可決定までの手順
主な手順は以下のとおりです。
1. 専門家への依頼と督促の停止
弁護士などに相談・依頼し、債権者からの取り立てを止めてもらいます。
2. 裁判所への申立書類の準備
借金や財産の状況をまとめ、裁判所に提出するための正式な書類を作成します。
3. 裁判所への申立てと裁判官との面談(審尋)
準備した書類を裁判所に提出し、後日、裁判官と直接面談して事情を説明します。
4. 破産手続の開始決定と手続き内容の決定
裁判所が申立てを認め、手続きを開始します。同時に財産状況に応じて同時廃止か管財事件かが決まります。
5. 手続きの進行(財産調査や配当)
管財事件の場合、破産管財人によって財産の調査や債権者への配当がおこなわれます。
6. 免責許可決定の確定
最終的に裁判所から借金の支払義務を免除する「免責許可」が下り、手続きが完了します。
自己破産の手続きは、専門家のサポートを受けながら進めることで、解決に向けて着実に進めることが可能になります。
2. 裁判所と弁護士に支払う費用
自己破産の費用は、裁判所に納める費用と専門家に支払う費用の2種類にわかれます。
費用の種類と目安金額は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 裁判所費用 | 申立手数料(収入印紙)、官報公告費、郵券(切手代) | 約2~5万円 |
| 管財人予納金(管財事件の場合) | 少額管財:約20万円~ 通常管財:約50万円~ | |
| 専門家費用 | 相談料、着手金、成功報酬など(弁護士・司法書士) | 約30万~ |
費用のご用意が難しい方のために、多くの法律事務所では分割払いに対応しています。
また、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用すれば、費用の立て替えや分割払いも可能です。
3. 手続きに必要な期間の目安
自己破産の手続きが完了するまでの期間は、手続きの種類によって大きく異なります。
手続きの段階と期間の目安は以下のとおりです。
| 手続きの段階 | 同時廃止事件の目安 | 管財事件の目安 |
|---|---|---|
| 専門家への相談~申立て準備 | 約2~3ヶ月 | 約2~3ヶ月 ※借入先の数や資産状況の複雑さ、書類収集の進捗により6か月~1年程度かかることもあります |
| 申立て~破産手続開始決定 | 約2週間~1か月 | 約2週間~1か月 |
| 開始決定~免責許可決定の確定 | 約2~4か月 | 約6か月~1年以上 |
| 合計期間の目安 | 約4ヶ月~8ヶ月 | 約6ヶ月~1年以上 |
自己破産の手続きには一定の期間がかかるため、その間の生活費などを計画的に確保しておくことが大切です。
弁護士に依頼する際は、自分のケースでどちらの手続きになるか、具体的な期間の見通しについて確認してみてください。
破産宣告に関するよくある疑問
最後に、自己破産を検討する際のよくある質問に回答します。
正しい知識を持つことで、不必要な不安を解消し、適切な判断を下す助けとなるでしょう。
Q. 生活保護受給中でも手続きは可能ですか?
A. 生活保護を受給している方でも、自己破産の手続きは可能です。
生活保護制度と破産制度は目的が異なる別の制度であり、両者を利用することは問題ありません。
自己破産を検討している場合は、担当のケースワーカーにも相談することが望ましいでしょう。
自己破産により借金の返済義務がなくなれば、将来的に生活保護から自立できる可能性も高まります。
Q. 破産宣告後に年金受給できますか?
A. 自己破産をしても、公的年金(国民年金、厚生年金など)の受給資格が失われたり、受給額が減らされたりすることはありません。
破産手続開始決定時に預貯金がある場合、これらは債権者への配当に充てられる可能性があります。
手続き開始後に振り込まれる年金は新得財産として、自由に使うことができます。
また、年金だけでは生活が苦しい場合は、生活保護との併給が可能かどうか、福祉事務所に相談することも選択肢のひとつです。
Q. 2回目の破産宣告はできますか?
A. 原則として、前回の免責許可決定の確定日から7年が経過していれば、2回目の自己破産の申立ても可能です。
ただし、7年が経過していても、2回目の申立てでは裁判所の審査がより厳しくなる傾向があります。
前回の破産から今回の破産に至るまでの経緯や、経済的な更生の努力があったかなどが詳しく調査されます。
2回目の破産に至った経緯を、客観的かつ誠実に説明できるよう準備しておきましょう。
また、弁護士に相談する際は、前回の破産の経緯や書類も可能な限り用意しておくことが望ましいです。
Q. 破産宣告の手続きは弁護士がいないとできませんか?
A. 法律上、弁護士に依頼せず、本人が自分で自己破産の手続き(本人申立て)をおこなうことは可能です。
しかし、実際には、弁護士や司法書士に依頼することがおすすめです。
司法書士に依頼することも選択肢のひとつですが、司法書士は裁判所での代理権がないため、本人申立て扱いとなり、管財事件になる可能性が高くなります。
これらの点を考慮すると、頼れる弁護士に相談するのが得策でしょう。
まとめ
本記事では、破産宣告(自己破産)について、全体像を詳しく解説しました。
重要な点は、自己破産が経済的再生のために法が用意した救済措置であるということです。
手続きを成功させるには、利用条件を正確に理解し、手続きの流れや費用を把握したうえで、計画的に準備を進めることが不可欠です。
弁護士など専門家への相談も視野に入れながら、再スタートに向けた具体的な行動を開始してみてください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

