私たちは誰もが公的医療保険に加入します。年金受給者や個人事業主の人は、国民健康保険の被保険者です。
被保険者は、必ず保険料を納めなければなりません。しかし、なかには生活状況などから滞納が続いている人もいるのではないでしょうか。
国民健康保険料を滞納していると、差し押さえのリスクがあります。差し押さえはどのような影響があり、どういった流れで進むのでしょうか。また、もし差し押さえられた際は、どうしたら解除されるのでしょうか。
この記事では、国民健康保険料を滞納した際の差し押さえについて、対象となる財産や流れ、防ぐ方法などを詳しく解説します。
国民健康保険料の滞納は財産差し押さえの対象になる

国民健康保険料の支払いを放置すると、財産が自治体に没収される「差し押さえ」の対象となります。
法律に基づき自治体が強制的に滞納分を回収する手続きであり、裁判所の判決を待たず、自治体の権限で銀行口座の凍結や給料の一部回収が行われます。
法律上、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに納付されない場合は、差し押さえの必要があると定められています。差し押さえられる財産は、換金しやすい銀行預金や、確実に回収できる給与が優先される傾向です。
「差押予告」が届いている場合、強制執行が目前に迫っている状態であり、早急に対処しなければなりません。
同じ社会保険料である国民年金保険料についても、滞納すると差し押さえのリスクがあります。詳しくは、以下の記事で紹介しています。
年金未納だと差し押さえ対象になる?条件や流れ、対処法を解説 | 千代田中央法律事務所
国民健康保険料を滞納するリスク

国民健康保険料の支払いを怠ると、延滞金や差し押さえなど、生活にかかわるリスクが発生します。どのようなペナルティがあるのかを把握し、早期対策に努めましょう。国民健康保険料を滞納するリスクを解説します。
延滞金が加算される
国民健康保険料の納期限を過ぎると、遅延利息として「延滞金」が発生します。国民健康保険料は原則2年、国民健康保険税として徴収している自治体は5年の時効が設定されており、放置する期間が長いほど滞納分が累積します。
延滞金がかさむと最終的な請求額が多額になる可能性があるため、一括納付が困難になる前に窓口で分割納付の相談を行うのが望ましいです。
保険証を使用できなくなり医療費負担が全額になる
国民健康保険料の滞納が長期化すると、通常の健康保険証を返却する必要があり、代わりに「特別療養費」の対象になります。特別療養費の対象者は、医療機関での費用を一旦全額自己負担しなければなりません。
また、医療機関を受診する際は、原則マイナ保険証を持参する必要があります。マイナンバーカードに保険証機能を移行していない人は、資格確認書が交付されるため、その書類を持参して医療機関へ行く必要があります。
医療機関に通う機会がある人は、早急に自治体窓口に納付相談をしましょう。
保険給付が差し止められる
国民健康保険料の支払いに対する警告を無視し続けると、保険給付が差し止められます。前述のように医療費が10割負担になるほか、高額療養費や出産育児一時金、葬祭費といった給付はすべて停止されます。
それでもなお保険料を未納のままにしていると、財産調査を経て差し押さえが実行されます。差し押さえが実行されると収入の一部も天引きされるため、日常生活にも影響を及ぼす可能性があるでしょう。
国民健康保険の滞納で差し押さえられる財産

国民健康保険料を未払いのままにすると、自治体によって財産が差し押さえられます。財産が差し押さえられると、自由にお金が使えなくなるだけでなく、資産を失うリスクもあります。
滞納により差し押さえられる財産について解説します。
預貯金・給与などの現金
優先されやすい財産は、銀行預金や給与です。現金は未払い分の回収に効率よく充てられるためです。
役所は質問検査権を用いて、滞納者の口座がある銀行や勤務先を特定し、財産差し押さえを執行します。差し押さえられる金額も高額で、たとえば手取り25万円の独身者の場合は、生活費や控除を差し引いた約12万円が毎月差し押さえ対象になります。
勤務先に通知が届けば滞納の事実が職場に知られるため、手遅れになる前の相談が重要です。
生命保険
将来のために加入している生命保険も差し押さえの対象となります。生命保険の解約返戻金が換金可能な資産とみなされるためです。役所による調査では保険会社に対しても契約状況の確認が行われ、強制的に解約されて返戻金が滞納分に充てられるケースがあります。
保険は万が一の備えとして重要なものです。解約を避けるためには、差し押さえ実行前に家計の収支表や通帳を持参し、自治体窓口で分割納付について相談する必要があります。
不動産や車
現金や保険のほか、土地・建物といった不動産や車も差し押さえられます。こうした固定資産は「公売」という形式で役所が売却し、代金を保険料に充てます。
また、不動産が差し押さえられると登記簿に記録され、自由に売却できなくなります。ただし、車が生活に欠かせない場合などは、交渉次第で執行の猶予が認められるケースもあるでしょう。
国民健康保険の滞納による差し押さえの流れ

督促状が届いてから実際に差し押さえが実行されるまでには、段階的な警告が行われます。
| 段階 | 主な通知・状態 | 医療の受け方 | リスク |
|---|---|---|---|
| 初期(納期限後) | 督促状・催告書 | 通常の保険証(3割負担) | 延滞金の発生 |
| 中長期(数ヶ月~1年以上) | 特別療養費 | 一旦10割負担(全額自己負担) | 医療費の一時的な高額化 |
| 最終(予告後) | 差押予告書 | 差し押さえ実行直前 | 口座凍結・給与天引き |
警告がどの程度の段階のものなのか、現在どういった状況なのかを正しく把握し、早期に自治体窓口へ相談することが重要です。国民健康保険料の滞納による差し押さえの流れを見ていきましょう。
1. 督促状・催告書が届く
国民健康保険料の納期限を過ぎると、まず書面による納付の催促が行われます。本来の期限から20日以内に、法的な通知である「督促状」が送付されます。督促状の送付をもって、役所が滞納を正式な債務として記録し、強制執行の準備を始めることになります。
督促状を無視し続けると、より警告度の高い「催告書」が届きます。この段階で自治体に連絡して家計状況を説明し、分割払いを相談すれば、差し押さえを回避できるかもしれません。
2. 特別療養費の対象になる
国民健康保険料の滞納が1年以上続くと、特別療養費の対象になります。特別療養費とは、病院の窓口で支払う医療費が一旦10割負担になるものです。現在は、マイナ保険証により特別療養費の対象かどうかがすぐに判断できます。マイナ保険証を利用していない人は、旧来の資格確認書が交付されるため、それを医療機関に持参して受診します。
10割負担となったうちの7割は後日還付されますが、通常その還付金は滞納している保険料に充てられます。
医療機関を気軽に受診できなくなるため、通院の機会がある人は早急に解決策を探らなければなりません。
3. 財産調査が実施されて差押予告が届く
役所が強制執行を決断すると、質問検査権に基づき徹底的な財産調査が行われます。具体的には、勤務先や銀行へ資産状況が直接照会された後、差し押さえの実行を宣言する「差押予告書」が届きます。
また、会社にも滞納の事実が知られ、口座も凍結される可能性が高まります。予告書が届いた際は、差し押さえを回避するために早急に納付相談をするのが望ましいです。
4. 差し押さえが実行される
予告期間を過ぎると、事前の連絡なく財産の差し押さえが実行されます。銀行口座の凍結や給料の天引きが行われ、借金返済などよりも優先して保険料が取り立てられます。
差し押さえ実行後は、滞納分と延滞金を完納するか、無理のない分割納付で合意し、換価の猶予をしてもらうかのどちらかとなります。財産が次々と売却されるため、すぐに分割納付や猶予の相談をしてください。
国民健康保険の滞納を防ぐ方法

国民健康保険料の支払いが厳しくなった際は、督促状などの通知を無視することは避けてください。放置すれば差し押さえのリスクが高まります。
支払えない正当な理由がある際は、救済制度を活用し、早急に相談窓口へ行くのが重要です。国民健康保険料の滞納を防ぐ方法を解説します。
減免や猶予対象になるか確かめる
まず、自分が減免や猶予の対象に含まれるかを確認しましょう。災害や失業、所得の著しい減少などの事情がある場合、保険料の全額または一部が免除される仕組みがあります。また、世帯所得が一定基準を下回る場合、自動的に均等割額が減額される軽減制度も存在します。
災害などの事情による免除は、申請が必要です。納期限が過ぎる前に自治体のホームページなどで手続き方法を確認してください。
分割納付を交渉する
国民健康保険料の一括納付が困難な場合に、窓口で誠実に対応すれば分割納付が認められる場合があります。分割納付で滞納総額を無理のない範囲で少しずつ支払えば、完納に近づくでしょう。
相談時には預貯金通帳や家計収支表など、経済状況を客観的に証明できる書類の提示が求められます。データに基づいた返済計画を示せば、信頼を得られるでしょう。
ただし、約束を破ると差し押さえ手続きが再開されるおそれがあるため、現実的な金額で合意することが重要です。
収入を増やして保険料に充てる
支出の見直しに加え、収入を増やして未払い分を減らす努力も必要です。国民健康保険料の時効は2年(国民健康保険税は5年)と長く、放置するほど延滞金が加算され、負債が膨らみます。早期に完済できれば、無駄な手数料を削減できるのです。
自治体の就労支援窓口なども活用し、安定して保険料を支払える基盤を整えることが推奨されます。収入アップによって少しずつ未納額を減らし、差し押さえを回避しましょう。
親族の扶養に入ることを検討する
自身の年収が130万円以下であれば、家族の職場の健康保険の扶養に入れる可能性があります。被扶養者認定を受ければ、以降の保険料の支払いは不要です。
ただし、過去の滞納分が免除されるわけではなく、支払い義務は残ります。また、働く企業の規模や収入によっては、年収106万円を超えると自社の社会保険に加入しなければならず、扶養には入れません。
頼れる親族がいる場合には、扶養に入れるか確認してもらいましょう。
国民健康保険の滞納による差し押さえを解除してもらう方法

国民健康保険料の滞納による差し押さえ実行後は、原則として未払い分がすべて納められるまでは解除されません。
しかし、生活困窮や誠実な支払い意思がある場合、解除や一時停止が認められる余地があります。現状を正直に話し、具体的な解決策を提示して交渉しましょう。
差し押さえ解除の方法を解説します。
滞納金・延滞金を完済する
確実かつ即座に差し押さえを解除する方法は、滞納保険料と延滞金をすべて支払うことです。延滞金の時効は5年であり、高額になっているケースも多いです。債務をゼロにすれば、役所が財産を拘束する法的理由はなくなります。
一括払いが難しい場合は、親族から一時的に借りて完済を目指す選択肢もあります。支払った直後に必ず担当者へ報告しましょう。
分割納付をする
滞納している国民健康保険料の全額を一括で払えない場合でも、誠実な態度で分割払いを約束すれば、換価の猶予を受けられる可能性があります。換価の猶予は、差し押さえた財産の公売を一時的に猶予してもらうものです。
相談時には預貯金通帳や家計収支表などの資料を提出し、一括払いでは生活が破綻することを証明する必要があります。分割払いの約束を破ると猶予は取り消されるため、確実に支払い続けられる金額を提示しましょう。
債務整理を相談する
ほかの借金が重なり返済が困難な場合は、弁護士などに債務整理を相談することも検討しましょう。
国民健康保険料の滞納分は、債務整理をしても免除されない非免責債権です。そのため、自己破産をしても支払い義務は消えません。しかし、カードローンなどのほかの借金を整理できれば、その分を保険料の納付に回せるようになり、差し押さえを解除してもらいやすくなります。
専門家への依頼には費用がかかるため、法テラスなどの無料相談を利用し、状況に応じた最適な手続きを見つけるのも有効です。
まとめ

国民健康保険料を滞納すると、差し押さえのリスクがあります。数日程度であれば、自治体窓口に連絡して相談すれば早期に解決できますが、滞納期間が長引くと、自分のお金を自由に使えなくなったり、財産が売却されてしまったりします。
差し押さえを回避するには、すぐに滞納分と延滞金をすべて納めるのが望ましいです。また、分割納付について相談したり債務整理をしたりするのも有効です。もし債務整理をするのであれば、弁護士事務所に相談してみるとよいでしょう。
千代田中央法律事務所では、債務整理に関する相談を受け付けています。借金を一度整理して滞納を解消し、差し押さえを回避したい人は、初回の無料相談をぜひご利用ください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

