「法人の税金を滞納したら、代表である自分の自宅や預金まで差し押さえられる?」といった不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。正しい知識を持てば、過度な恐怖から解放され、会社と個人の生活を守るための一手を打てるようになります。
この記事では、法人の税金滞納における代表者の責任範囲や、差し押さえを回避するための猶予制度、税務署への正しい対応法を解説します。正しい知識と対応策を把握したうえで、経営再建に取り組みましょう。
法人の納税義務の基礎知識

法人の税金滞納が代表者個人の生活にどこまで波及するのか、その基本的な考え方を以下の2項目にわけて解説します。
法律上の原則と、実務において注意すべき例外的なリスクを把握しておきましょう。
代表者の責任範囲について詳しくは、以下の記事もあわせて参考にしてください。
法人破産の代表者の責任範囲はどこまで?生活への影響や手続きの流れを解説 | 千代田中央法律事務所
1. 法人の納税義務は原則として代表者個人に及ばない
法律上の原則において、法人の税金滞納によって代表者個人が自動的に支払い義務を負うことはありません。
その理由は、株式会社や合同会社といった法人は、法律によって代表者という個人とは全く別の人格として扱われる「法人格独立の原則」に基づいているためです。
会社の税金が払えないからといって、直ちに代表者個人の預貯金や自宅、自家用車などが差し押さえられることはないのが基本のルールです。
2. 例外的に代表者個人の財産が差し押さえ対象になるケースもある
例外として、法人の滞納であっても、一定の場合には代表者や関係者に補完的な納付義務(第二次納税義務など)が及ぶことがあります。
代表例は、以下の通りです。
- 解散・清算時に税を納めず残余財産を分配した場合
- 滞納処分を免れる目的で会社財産を無償または著しく低額で移転した場合
- 無限責任社員が会社債務に責任を負う場合
- 偽りその他不正の行為により免れた税について役員等が一定範囲で責任を負う場合
上記などに該当する場合は、法人格の壁を超えて、譲渡された資産を限度に納税責任を補完する仕組みになっているのです。
代表者が滞納した税金の支払い義務を負うのはどのようなとき?

法人の滞納であるにもかかわらず、代表者が法的な支払い義務を負い、個人の財産が差し押さえ対象となってしまう4つのケースを紹介します。
1. 代表者が納税の保証人になっているとき
前提として、税金には銀行融資のような連帯保証人制度はありません。しかし、資金繰りが悪化して税務署に換価の猶予や納税の猶予を申請する過程で、代表者自身が自ら保証人になっているケースがあります。
税務署長が猶予を認める際、担保となる不動産などの物的担保がない場合に、代表者が保証人として署名、捺印をするケースなどがその例です。
猶予申請書などの書類に個人の実印を押して保証人欄に記載していれば、法的な支払い義務が発生し、会社が分納できなくなった時点で代表者個人の財産が差し押さえ対象となります。
2. 第二次納税義務が適用される要件を満たす場合
会社の財産を処分しても滞納税額に満たない場合、会社と密接な関係にある第三者が補完的に納税義務を負うことになるケースがあります。
とくに注意が必要なのは、株主とその親族などが発行済株式の50%超を保有している同族会社などで特定の要件を満たす場合です。
国税徴収法第35条等にもとづき、支配権を持つ株主や代表者に対して、持ち株割合等を限度として納税義務が課される可能性があります。
また、滞納処分を免れる目的で会社名義の資産を代表者へ無償譲渡した場合や、税金を納めずに残余財産を分配した場合も、この義務の対象となります。
3. 合名会社・合資会社で無限責任社員の場合
合名会社または合資会社である場合は、代表者は税金の支払い義務を負うことになります。
会社法において、これらの会社の無限責任社員は、会社の債務に対して直接かつ無制限に責任を負うと定められているためです。
会社が税金を滞納し、会社財産で賄いきれない分については、代表者個人の財産を使ってでも支払わなければなりません。この場合、第二次納税義務のような複雑な要件判定を経ることなく、法律上当然に個人への請求権が発生します。もし無限責任のリスクがある場合は、直ちに組織変更や債務整理の可能性を検討する必要があります。
4. 実質的に個人事業と同じとみなされる場合
法人格を持っていても、会社と個人の資産が明確に区分されておらず、実質的に法人格が形骸化していると判断された場合、税務署は代表者の財産を法人のものと同視して差し押さえにかかることがあります。
具体的には、以下のようなケースがあげられます。
- 会社の売上を社長個人の銀行口座に入金させている
- 社長の個人的な生活費を会社の経費として支出している
- 親族名義であっても、実態として社長が管理している名義預金がある
これらは税金逃れのための資産隠しとみなされることがあるため、公私の資産をきちんと区分しておくことが肝心です。
法人の税金滞納でどのような財産が差し押さえの対象になる?

税務署が強制執行に踏み切った際、以下のような資産が差し押さえの対象になる場合があります。
以下で詳しくみていきましょう。
預金口座(給与振込口座含む)
税務署が優先的に実行するものとして、銀行口座の差し押さえがあげられます。金融機関への照会が可能であり、すぐに現金を確保できるためです。
差し押さえとなる場合、ある日突然銀行から通知が届き、その瞬間から口座は凍結状態となります。これにより、資金ショートに陥るケースも珍しくありません。
売掛金(取引先への債権)
売掛金も差し押さえの対象です。これは、今後取引先から受け取るはずの代金を、税務署が直接回収する手法です。
税務署から主要な取引先に対して差押通知書が送付されると、取引先はその代金を、代わりに税務署へ納税しなければならなくなります。
税金を滞納しているという事実が公然と知れ渡り、社会的信用に影響を与えることも大きなデメリットです。
不動産・自動車などの固定資産
不動産・自動車などの固定資産は、現金化に手間がかかるため優先順位はやや下がりますが、滞納額が高額な場合には対象となります。
自社ビルや工場、社長名義の土地などが差し押さえられると、登記簿謄本に「差押」と記録されることになります。
最終的には公売(競売)にかけられ、市場価格よりも大幅に安い金額で強制売却されるケースもあるでしょう。
また、営業車両などの動産については、タイヤロックなどの器具を取り付けて物理的に運行不能にする措置が取られることもあります。
生命保険の解約返戻金などの金融資産
法人が節税や退職金積立のために加入している生命保険も対象です。解約返戻金がある保険を、税務署は「解約返戻金請求権」という債権とみなします。
滞納処分が執行されると、税務署は契約者に代わって保険会社へ解約を通知し、その返戻金を直接徴収します。
税務署は法人が提出する決算書などを通じて、どこの保険会社にどのような契約があるかを把握される可能性が高いです。
法人の税金滞納から差し押さえまでの流れ

法人税の納期を過ぎてから実際に差し押さえられるまでのタイムラインを4つのステップで解説します。
滞納処分は法律にもとづき、粛々と進行していくことを理解しておく必要があります。
1. 督促状が届き、延滞税が発生する
納期を1日でも過ぎると、翌日から延滞税の計算が開始されます。
法律上は、督促状の発付日から10日を経過するまでに完納がないと、差押えが行われ得ます。 一定の場合には、10日を待たずに直ちに差押えが可能な規定もある点に注意が必要です。
督促状が届いてから10日が経過した時点で、税務署は事前の予告なしに強制執行を行える権限を手に入れることになります。
2. 電話や訪問で支払いを催促される
督促状を送付しても反応がない場合、税務署の徴収部門による直接的な催告が始まります。電話での支払要求や、事務所や自宅への直接訪問が行われます。
ここで絶対に避けるべきは、電話に出ない、居留守を使うといった無視や逃避です。
連絡を拒絶する態度は納税の意思がないとみなされ、強制執行の優先順位を一気に引き上げられる原因となります。
3. 予告なしに財産を調査される(取引先への照会など)
催告にも応じない場合、税務署は水面下で本格的な財産調査に着手します。徴収職員には強力な質問検査権が与えられており、裁判所の令状なしに実施可能です。
預金口座の残高照会はもちろん、取引先に対する「反面調査」も行われます。これによって取引先に滞納の事実が知れ渡ってしまうリスクがあります。
4. 財産を差し押さえられ、強制的に換価される
財産調査によって資産が特定されると、最終的な通告なしに差押調書が送達され、強制執行が断行されます。預金の引き抜きや不動産には差押登記のほか、保険の強制解約なども実行されます。
一度差し押さえられた財産を取り戻すことは困難です。ただし、実際に売却される前であれば換価の猶予を申請することで、売却を一時的に待ってもらえる可能性がわずかに残されています。
代表者が差し押さえを回避するために今すぐできる対処法

税務署からの督促を受けている経営者が、最悪の事態を回避するために直ちに行うべき5つのアクションを解説します。
- 無視せずに早急に税務署へ相談に行く
- 換価の猶予制度を利用して分割納付を申請する
- 納税の猶予制度の適用要件を確認する
- 資金調達や資産売却で納税資金を確保する
- 弁護士に相談し債務整理や破産手続きを検討する
逃げずに法的な制度を正しく活用することが、解決への唯一の道です。
1. 無視せずに早急に税務署へ相談に行く
恐怖心から督促を無視してしまうケースがありますが、これは決して行わないようにしましょう。自ら税務署の徴収部門に出向き、担当者と対面で話をすることは、事態を打開するチャンスとなります。
まずは電話でアポイントを取り、支払う意思はあるが資金繰りが厳しい現状を正直に伝えてください。誠実な態度で現状を説明し、逃げない意思を示すことで、即時の強制執行を一旦待ってもらえる可能性が生まれます。
2. 換価の猶予制度を利用して分割納付を申請する
一括納付が困難な場合、「換価の猶予」を申請しましょう。これは、一定の要件を満たすことで原則1年間(最長2年)の分割納付が認められ、その期間中は財産の換価が猶予される制度です。
申請には、毎月の支払可能額を示した納付計画書や財産目録などの提出が必要です。要件を満たせば認められる納税者の権利であるため、実現可能な計画を作成しましょう。
3. 納税の猶予制度の適用要件を確認する
資金繰り悪化の原因が、災害、盗難、あるいは取引先の倒産や売上の著しい減少(前年同期比でおおむね50%以上の減少など)にある場合は、「納税の猶予」が適用できる可能性があります。
これは換価の猶予よりも強力な効力を持ち、適用されれば新たな差し押さえが禁止され、既に執行された差し押さえが解除されるケースもあります。ご自身の会社の状況が要件に当てはまるかどうかは、税理士などの専門家に確認して判断しましょう。
4. 資金調達や資産売却で納税資金を確保する
猶予制度はあくまで一時的な救済措置であり、最終的には支払わなければなりません。税務署に猶予を認めてもらうためにも、少しでも納税資金を確保する姿勢を見せることが大切です。
具体的には、使用していない社用車や遊休不動産の売却、過剰在庫の処分などを検討してください。
また、生命保険の解約返戻金やファクタリングによる早期現金化を利用して一時金を作ることも選択肢に入ります。一部でも納付することで、交渉の説得力は格段に増します。
5. 弁護士に相談し債務整理や破産手続きを検討する
もし税金だけでなく、銀行への返済や取引先への支払いも滞っており、事業継続が客観的に見て不可能な状態にあるならば、弁護士に相談して法的整理を検討すべき段階かもしれません。
法人が破産手続きを経て消滅すれば、法人の納税義務自体は消滅します。ただし、代表者が既に納税の保証人になっていたり、第二次納税義務の通知を受けていたりする場合、その個人としての支払い義務は法人の破産後も消えずに残り続ける点に注意が必要です。
法人の税金滞納に関するよくある質問

経営者が抱きがちな法人の税金滞納に関する疑問に対して、法律に基づいた回答を解説します。
Q. 税金は銀行の借金など他の債務より優先して回収される?
Q. 代表者個人が破産すれば税金は免除される?
Q. 自宅や給料の差し押さえは家族にバレる?
Q. 督促状が来てから差し押さえまでの期間はどのくらい?
優先順位や免責の可否など、誤解しやすいポイントを整理しておきましょう。
Q. 税金は銀行の借金など他の債務より優先して回収される?
A. 税金には優先徴収の原則がありますが、法律上は例外・順位調整もあります。常に他の債務よりも最優先ではありませんが、差し押さえにおいて優先されやすい債務といえるでしょう。
また、一般的な借金の回収には裁判所を通じた手続きが必要ですが、税金の場合は自力執行権により、裁判所の判決なしに差し押さえを執行できます。
Q. 代表者個人が破産すれば税金は免除される?
A. 個人の自己破産手続きを行っても、滞納している税金や社会保険料の支払い義務は消滅しません。
租税等の請求権は、裁判所が免責を許可しても例外として残り続けます。
破産後も税務署からの追及は続くため、破産すればすべて終わるという期待を持つのではなく、破産前に少しでも滞納額を減らす努力が将来の自分を助けることになります。
Q. 自宅や給料の差し押さえは家族にバレる?
A. 差し押さえが行われる段階になると、家族や職場に隠し通すことは困難です。税務署には捜索の権限があり、自宅へ立ち入り調査を行うことができます。
また、役員報酬や給料が差し押さえられた場合は通知が送付されるため、郵便物から家族にバレることも考えられます。
事態が悪化する前に正直に打ち明け、家族の理解を得ることが重要です。
Q. 督促状が来てから差し押さえまでの期間はどのくらい?
A. 法律上の回答として、督促状が届いてから差し押さえまでの期間は、最短で「督促状を発した日から10日後」です。この期間を過ぎれば、税務署はいつでも強制執行を行う法的権限を有します。
ただし、実際にこのスケジュールに沿って強制執行が行われることはほとんどないでしょう。実務上は、数か月程度のタイムラグが生じることがあります。
ただし、これはあくまで事務処理の都合によるものですので、「まだ大丈夫」と安易に考えず、いつ差し押さえになってもおかしくないという危機感を持つことが重要です。
まとめ

法人の税金滞納は、原則として代表者個人の財産には及びませんが、同族経営が多い中小企業においては第二次納税義務などの例外規定により、個人の資産がリスクに晒される側面があります。
差し押さえが実行されれば、預金や売掛金、さらには社会的信用まで一瞬にして失われかねません。
事態を悪化させないための鍵は、早期の誠実な対応と、法的に認められた猶予制度の活用です。一人で抱え込まず、税理士や弁護士などの専門家と連携し、最適な再建計画を立てることが再スタートへの近道となるでしょう。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

