会社を解散する際、滞納している社会保険料の支払い義務はどうなるのか不安を感じている経営者もいるでしょう。まずは仕組みを理解し、今ある不安を解消することが大切です。
本記事では、会社が解散した際、滞納中の社会保険料が法的にどのように扱われるのかを解説します。また、代表者個人に請求が及ぶケースや差押えのリスク、従業員への影響、適切な解散手続きの流れも紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。
会社を解散すると滞納中の社会保険料はどうなる?

結論からいうと、会社を解散しても、滞納中の社会保険料の支払い義務は消えません。
ここでは、通常清算と破産の違い、破産手続開始による差押え停止の効力、会社の滞納が社長個人に及ぶかどうかという3つの観点から、滞納中の社会保険料が法的にどう扱われるのかを解説します。
なお会社の解散と廃業の違いについては、以下の記事でわかりやすく解説しているので参考にしてください。
会社の解散と廃業の違いは?手続きの流れや費用を解説 | 千代田中央法律事務所
法人格が消滅するため会社の納付義務は消える
社会保険料の滞納がある会社は、破産手続きを完了させることで会社としての納付義務が消滅します。
法務局で解散登記を行うだけの通常清算の場合は、資産で負債(社会保険料の滞納を含む)を完済できることが前提の制度です。滞納がある債務超過の状態では清算結了が認められず、会社は法的に存続したままとなります。
一方、裁判所に破産を申し立て、手続きが完了すると法人格そのものが消滅します。納付義務の主体である法人が存在しなくなるため、結果として社会保険料や税金の支払い義務もなくなる仕組みです。
滞納がある状態で会社を終わらせるには、法人格を適切に消滅させる必要があるため、通常清算ではなく破産手続きを選びましょう。
滞納処分は原則として執行停止になる
破産手続開始決定が出ると、社会保険料の対応をはじめとした負債に対する処分(差押え)は原則停止されます。
社会保険料や税金には自力執行権があり、裁判を経ずに差押えが行われますが、破産法は債権者間の公平を重視するため、開始決定後は年金事務所や税務署であっても差押えはできません。
ただし、弁護士に相談しただけでは、社会保険料や税金の差押えは止まりません。これらは通常の借金と異なり、受任通知では徴収が止まらないため、申立て前に口座や売掛金を差し押さえられるリスクがあります。
差押えが止まるのは、裁判所の破産手続開始決定後のため、資金が尽きる前に準備を進め、すみやかに申立てを行うことが重要です。
会社の滞納と代表者個人の滞納は別扱いになる
株式会社や合同会社では、会社の社会保険料を滞納して破産しても、原則として代表者個人が支払う必要はありません。
これらは有限責任会社であり、会社と社長個人は法律上まったく別の存在として扱われます。社会保険料は会社に課される義務で、銀行融資のように代表者保証が付くこともないため、会社の滞納を理由に、社長個人の預金や自宅が差し押さえられることはありません。
ただし、会社の資産を私的に流用したり、不当に第三者へ移したりした場合は、第二次納税義務が問われ個人に請求が及ぶ可能性があります。
代表者個人の生活や財産を守るためにも、自己判断で手続きせず、法律に沿った透明性の高い破産手続きを行うことが重要です。
会社解散後に代表者が滞納している社会保険料を支払うケース

会社を破産させても、一定のケースに該当すると、代表者個人が社会保険料の支払い義務を負うことがあります。
株式会社や合同会社の代表者は原則として有限責任ですが、その保護は無条件ではありません。
ここでは、代表者に請求が及ぶ代表的な4つのケースを解説します。
1. 代表者が連帯保証している
社会保険料について、代表者が個人的に保証契約を結んでいれば、会社解散後も支払い義務は残ります。
社会保険料は法律に基づく公的債権であり、銀行融資のように代表者保証が自動的に付くことはありません。そのため、基本的には会社破産とともに代表者個人への請求は止まります。
ただし、納付猶予や分納交渉の過程で、納付確保を目的に納付保証書へ個人名義で署名・捺印している場合は、その保証は有効になります。この場合、会社が消滅しても保証人としての責任は残るため、過去に長期の滞納や交渉があった場合は、個人保証に関する書面が提出されていないか確認しましょう。
2. 無限責任の立場で負担義務がある
会社の借金を個人がすべて引き受ける立場の人は、社会保険料の滞納も個人の責任になります。会社形態が合名会社や合資会社で、かつ無限責任社員として登記されているケースが該当します。
合名会社の社員や合資会社の無限責任社員は、会社の債務について個人が直接責任を負うと法律で定められています。
そのため、会社の財産だけで滞納分を支払えない場合、個人の預金や不動産を充てる義務が生じます。このケースでは、会社を破産させるだけでは問題は解決せず、代表者個人も自己破産を検討する必要がある点に注意が必要です。
3. 代表者に第二次納税義務が課される
破産や清算の過程で資産の分配方法を誤ると、代表者個人に第二次納税義務が課されます。第二次納税義務とは、本来は会社が負う税金や社会保険料について、会社から回収できない場合に、一定の関係者に支払い義務を課す制度です。
たとえば、社会保険料を滞納したまま、残った資産を株主配当や役員退職金として支払ってしまうケースです。この場合、清算人や受領者は、受け取った金額を上限として納付義務を負います。
違法な意図がなくても、自己判断で資産を分配する行為自体がリスクとなるため、裁判所の管理下で手続きを進めることが不可欠です。
4. 財産隠しのような不正で責任を問われている
資産隠しや名義変更などの不正がある場合は、民事責任にとどまらず刑事責任を問われるおそれがあります。
たとえば、破産直前に多額の現金を引き出したり、不動産や車両を親族へ無償で譲渡したりする行為は、債権者を害する詐害行為と判断されるケースが考えられます。これらは破産管財人の否認権によって取り消され、滞納処分免脱罪や詐欺破産罪が成立するリスクもある点に注意が必要です。
破産管財人や税務当局には強い調査権限があり、不自然な資金移動は高い確率で発覚します。財産隠しは避け適切に破産手続きを踏むことで、自由財産として認められる範囲の現金や生活必需品を法律に基づいて守りましょう。
社会保険料を滞納した状態での会社解散が従業員に与える影響

会社が社会保険料を滞納したまま解散・破産しても、従業員の年金記録や失業給付などの権利は原則として守られます。
ただし、手続きの遅れや説明不足があると、健康保険の誤使用や失業給付の受給遅延といったトラブルにつながるでしょう。
ここでは、会社の社会保険料の滞納が従業員に及ぼす影響と、解散時に取るべき対応を解説します。
厚生年金の加入記録は滞納期間もそのまま残る
会社が社会保険料を滞納していても、従業員の厚生年金の加入記録は消えません。
年金制度では、保険料の納付義務は会社にある一方で、従業員の年金記録は資格取得届が提出され、給与から保険料が控除されている事実に基づいて管理されます。そのため、会社が破産して滞納分が回収不能になっても、従業員の加入期間が未納扱いになることはなく、将来受け取る年金額にも影響はありません。
ただし、この仕組みを知らない従業員は不安を抱くため、解散時に年金記録は法律で守られていることを明確に説明し、不安を取り除く配慮が必要です。
資格喪失手続きと健康保険証の返却が必要になる
健康保険の資格喪失手続きを行わないと、会社解散後に従業員が医療費を負担するリスクが生じます。
現在はマイナ保険証を基本とする仕組みに移行していますが、資格確認書で受診するケースもあるでしょう。会社が解散した時点で社会保険の資格は喪失し、その後に誤って医療機関を受診すると、後日、保険者が負担した医療費(原則7割)の返還請求を受ける可能性があります。
こうしたトラブルを防ぐため、代表者は解散と同時に資格喪失届をすみやかに提出し、健康保険の利用が確実に停止される状態を整えることが重要です。
離職票の発行と国保・国民年金への切り替え案内が必要になる
会社解散により従業員が離職した場合、雇用保険や社会保険の手続きが遅れると、失業給付や保険切替に支障が生じます。
解雇や倒産に該当する場合、自己都合退職のような給付制限はかからないものの、原則7日間の待期は必要で、離職理由の判断はハローワークが行います。解散時は事務体制が崩れ、離職票や資格喪失証明書の交付が遅れる可能性もあるでしょう。
そのため代表者は、離職票が未着でも一定条件下で仮手続きが可能であることや、国民健康保険・国民年金への切替に必要な書類を事前に案内しておく必要があります。あわせて、退職日や会社解散の事実を示す資料を従業員に渡しておくことが重要です。
社会保険料を滞納したまま会社を解散する流れ

社会保険料を滞納している会社は、手続きをすみやかに進めなければ、差押えによって資金や資産を失うリスクが高まります。
公租公課である社会保険料や税金は、通常の借金と異なり、弁護士が介入しただけでは回収が止まりません。裁判所の破産手続開始決定を得て、はじめて法的な保護が及びます。
ここでは、解散を決断してから会社が法的に消滅するまでの流れを、注意点とあわせて解説します。
1. 弁護士に相談し、年金事務所などへ受任通知を送る
社会保険料を滞納したまま会社を解散する場合は、まず弁護士に相談し、日本年金機構(年金事務所)や全国健康保険協会(協会けんぽ)などへ受任通知を送りましょう。
銀行や取引先であれば、この時点で督促は止まりますが、社会保険料や税金には滞納処分停止の効力は及びません。そのため、年金事務所や協会けんぽなどは受任通知後でも、口座や売掛金を差し押さえることが可能です。
こうした差押えを防ぐためには、弁護士を通じて破産申立て準備中であること・資産を保全していることを説明し、事実上の猶予を求める交渉が不可欠です。対応を怠ると、差押えにより破産費用すら確保できなくなるリスクがあります。
2. 裁判所へ破産を申立て、手続き開始の決定を受ける
続いて、裁判所へ破産申立てを行い、手続き開始の決定を受けましょう。会社は、破産手続開始決定が出た瞬間から法的に守られるため、すみやかな対応が重要です。
具体的には、必要書類と予納金の準備が整い次第、裁判所へ破産を申立てます。裁判所が開始決定を出すと、破産法によりすべての債権者による個別回収が禁止されます。この段階では、年金事務所や協会けんぽであっても、新たな差押えはできません。
申立てが遅れれば、決定前に差押えが実行されるリスクもあります。そのため、申立日と開始決定日を事前に設定し、弁護士とこまめに調整することが、解散手続きの成否を左右します。
3. 滞納している社会保険料は会社財産から優先して支払われる
滞納している社会保険料は、会社に残った資産から最優先して支払いに充てられます。
破産開始決定後は、破産管財人が会社の資産を管理・換価し、債権者へ配当するのが一般的な流れです。その際、社会保険料や税金は一般の借入金や取引先債権よりも優先順位が高く、最初に支払われます。
たとえば、資産200万円・社会保険料の滞納500万円・銀行借入1億円の場合、200万円はすべて社会保険料に充当され、銀行の借入金には充てられません。
4. 財産が不足した滞納分は破産手続で処理される
会社の資産で払い切れなかった社会保険料の滞納分は、法人破産の終了とともに消滅します。
破産手続が終結し法人格が消滅すると、債務自体がなくなるため、残額の支払い義務も法的に消滅します。代表者個人への請求については、無限責任社員や第二次納税義務に該当しない限り、原則として及びません。
適切な破産手続きを踏めば、会社の負債は会社で終わらせ、経営者自身は生活再建に進めるでしょう。
会社解散・社会保険料・滞納に関するよくある質問

最後に、会社解散・社会保険料・滞納に関するよくある質問に回答します。滞納のリスクや、新たに会社をやり直す際に参考になるため、ぜひご覧ください。
Q. 税金を滞納していても会社は解散できる?
Q. 会社が滞納した社会保険料は時効で消滅する?
Q. 社会保険料を滞納している会社はどうなる?
Q. 未払い社会保険料があっても新しく会社を作れる?
Q. 税金を滞納していても会社は解散できる?
A. 税金や社会保険料を滞納したままでは、通常の解散や清算はできません。通常の解散・清算は、会社の資産ですべての負債を完済することが前提です。滞納がある状態は債務超過であり、清算結了が認められません。
ただし、破産手続きを選択すれば解散は可能です。破産であれば、負債を全額支払えなくても、裁判所の管理下で資産を処理し、法人格を消滅させることが可能です。
法務局への解散登記だけでは納付義務は残るため、滞納がある場合は法人破産を前提に進める必要があるでしょう。
Q. 会社が滞納した社会保険料は時効で消滅する?
A. 会社が滞納した社会保険料が時効で消滅することは、実務上ほぼありません。
法律上、社会保険料の消滅時効は原則2年と定められていますが、実際に年金事務所は時効完成前に督促や差押えなどの滞納処分を行い、時効を更新(中断)させます。督促状の送付や差押えが一度でも行われると、時効期間はその時点からリセットします。
そのため、何もしなければ時効で消えるわけではなく、放置すれば延滞金が加算され、差押えのリスクも高まることを認識しておきましょう。社会保険料の滞納に関しては、時効を期待するのではなく、破産手続による解決が有効です。
Q. 社会保険料を滞納している会社はどうなる?
A. 社会保険料を滞納したまま放置していると、高確率で差押えが実行されます。
社会保険料や税金には、国税徴収法に基づく自力執行権があり、裁判を経ずに差押えが可能です。たとえば、会社の銀行口座が凍結されたり、売掛金が年金事務所へ直接回収されたりします。
とくに売掛金の差押えは、取引先に滞納が知られるため、会社の信用が失われ事業継続に悪影響を及ぼします。社会保険料を滞納している場合は、差押えが行われる前に弁護士へ相談し、破産申立てを含めた対応を取ることが重要です。
Q. 未払い社会保険料があっても新しく会社を作れる?
A. 社会保険料を滞納し未払いの状態でも、新会社を設立することは可能です。
法人はそれぞれ独立した人格を持つため、旧会社の滞納義務が新会社へ引き継がれるわけではありません。そのため、過去に破産を経験していても、法的には新たな会社を設立し、代表者になることが可能です。
ただし、資産隠しや法人格の濫用があり、旧会社の資産を不当に新会社へ移すといった行為があった場合は、責任追及を受ける可能性があります。再起業を目指すことが大切です。
まとめ

社会保険料を滞納していても、法的に正しい破産手続きを行えば、会社の解散とともに支払い義務は原則として消滅します。
代表者個人が責任を問われるのは、連帯保証をしている場合や第二次納税義務に該当するなど、限られたケースに限られます。一方、滞納を放置すると差押えにより資金や信用を失い、再起が難しくなるかもしれません。
差押えや信用失墜、再起困難などのリスクを減らすためにも、制度を正しく理解し、早い段階で専門家に相談することが重要です。適切な手続きを踏めば、会社を整理し生活再建へ進む道は確保できるでしょう。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

