代表取締役が死亡しても、会社の債務(会社名義の借金)は原則として相続人に引き継がれません。ただし、亡くなった代表が連帯保証人になっていた借金や、代表個人の借金がある場合は、相続の対象となり遺族に返済義務が及ぶケースがあります。
本記事では、会社の借金が、遺族が支払う必要のないもの・相続で引き継ぐ可能性があるものに分かれる理由を解説します。
また、確認すべき契約書のポイントから相続放棄・限定承認など生活を守る選択肢、死亡後に期限付きで進める登記や金融機関の対応まで説明しているため、ぜひ参考にしてみてください。
代表取締役が死亡したら会社の債務はどうなる?

代表取締役が死亡しても、会社の借金そのものが自動的に遺族へ相続されることはありません。ただし、代表個人の借金や、会社の借入に対する連帯保証がある場合は、相続の対象となり遺族が返済義務を負う可能性があります。
ここでは、会社に関係する債務を3つに分類し、それぞれ遺族がどこまで責任を負うのか、どう対応すべきかを整理して解説します。
1. 代表個人の借金は相続財産として扱われる
代表取締役が個人として契約した借金は、会社経営者であっても例外なく相続財産に含まれます。たとえば、クレジットカードのキャッシングやカードローン、個人名義の自動車ローンなどが対象です。
これらの債務は、預貯金や不動産といったプラスの財産と一体で相続されるため、負債が多い場合には、遺族の生活に影響を及ぼします。
代表取締役が死亡した際は、遺族は相続財産の全体像を把握し、債務超過が疑われる場合は、相続放棄を含めた対応を早期に検討することが重要です。
2. 連帯保証していた会社の借金は相続人が引き継ぐ
会社名義の借金であっても、代表取締役が連帯保証人になっている場合、その借金は代表個人の負債として扱われます。そのため、代表取締役が死亡すると連帯保証人としての地位は相続財産となり、相続人が引き継ぐのが一般的です。
中小企業の融資では、代表者が連帯保証人になるケースもあり、遺族が多額の借金を背負う要因となっています。
保証債務は相続開始と同時に法定相続分で承継されるため、家族間の話し合いだけでは免れません。債務を引き継ぐ必要があるとわかった時点で、すみやかに専門家へ相談し、対応方針を整理することが不可欠です。
3. 会社の借金そのものは相続の対象にはならない
代表取締役が保証人になっていない会社の借金については、原則として遺族が支払う義務はありません。株式会社や合同会社は、経営者個人とは別の法人格をもつため、会社名義の借入金や買掛金は会社自身の債務とされます。
そのため、代表取締役の死亡を理由に、会社の債務が家族へ請求されることはありません。ただし、遺族が誤って個人資産から会社債務を支払ってしまうと、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
相続放棄は最初から相続しないとする制度のため、相続人が借金を支払ってしまうと、引き継ぐ意思があったと判断され、相続放棄が認められなくなる場合があります。そのため、内容が不明な債務については、慎重に対応することが重要です。
代表取締役の死亡時に会社の債務が大きい場合の対処法

会社の債務や連帯保証、代表個人の借金が多額で返済が難しい場合、遺族は相続で借金を引き継ぐかをすみやかに判断しなければなりません。
ここでは、生活を守るための代表的な選択肢である相続放棄と限定承認について、それぞれの違いや期限などを解説します。
相続放棄
相続放棄は家庭裁判所に申述することで、法律上はじめから相続人ではなかったと扱われる手続きです。
相続放棄のメリットは、代表個人の借金だけでなく、代表が連帯保証していた会社借入の保証債務も含めて、原則として返済義務から解放される点にあります。一方で、預貯金や不動産などのプラスの財産も一切相続できない点はデメリットです。
さらに、遺産を処分したり私的に使ったりすると単純承認とみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。期限は相続開始を知ってから3ヶ月のため、すみやかに専門家へ相談し、適切な対応を判断することが重要です。
限定承認
限定承認は、相続で得たプラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ方法で、負債が資産を超えても、遺族である自己の財産まで返済に充てる必要がありません。
借金の全体像が不明な場合や、どうしても手放したくない財産がある場合に検討される方法です。ただし、相続人全員の合意が必要で手続きも複雑です。さらに、税務上は時価で譲渡したとみなされ、含み益がある資産には所得税が発生します。
限定承認は手続きが複雑で実務上の負担も大きいため、税理士や弁護士と試算したうえで慎重に選択しましょう。
代表取締役死亡後に必要な手続きと会社運営の流れ

代表取締役が死亡した場合、会社は自動的に止まるわけではありませんが、放置すると資金繰り悪化や信用低下を招きます。
ここでは、死亡直後から数ヶ月以内に行うべき会社手続きを4つのステップに分けて解説します。
順序を把握したうえで進めることで、会社と遺族双方のリスクを最小限に抑えられるでしょう。
ステップ1. 従業員・取引先・金融機関など関係者への連絡
代表取締役の死亡後は、まず従業員・主要取引先・金融機関へすみやかに連絡しましょう。
最初の対応が遅れると、取引停止や社員の動揺による離職、資金繰り悪化などにつながります。金融機関では、法人口座は原則維持されるものの、新代表の就任登記が完了するまで入出金が制限されることがあります。そのため、事前に取引金融機関へ確認しておくことが必要です。
まず従業員に会社の方針を伝えて社内の混乱を防ぎ、資金繰りを確認したうえで取引先、金融機関の順に説明することが重要で、順序を誤ると不要な不安や信用低下を招くおそれがあります。
ステップ2. 後継者(新代表取締役)の選任と登記変更
代表取締役が死亡した場合、2週間以内に死亡による退任登記を行う必要があります。後継者が決まっている場合は、新代表の就任登記も同時に申請しましょう。
登記が未了のままだと、契約締結や融資が実行できず、事業が事実上停止します。後継者が決まらない場合でも、退任登記だけは済ませ、仮取締役を選任するといった選択を検討することも重要です。
司法書士と連携し、現在の代表者を早期に明確化することが、信用維持の鍵となります。
ステップ3. 社長が保有していた自社株の相続手続き
代表取締役が自社株を保有している場合は、相続手続きを適切に行い、経営権を早期に整理することが重要です。
中小企業では代表取締役が大株主であることがあり、相続開始により自社株は相続人全員の共有状態となります。この状態では、株主総会での議決権行使に相続人の同意が必要となり、役員選任や重要決議が滞ります。
最終的には遺産分割協議により、後継者へ株式を集中させるのが望ましい対応です。他の相続人には現金や不動産で調整する代償分割を検討し、経営の意思決定が止まらない体制を整えることが重要です。
ステップ4. 銀行・契約・行政手続きなど名義と権限の切替
関係者への連絡や登記、相続手続きが完了した後は、銀行取引や賃貸借契約、リース契約、各種許認可などの名義を新たな代表取締役へ切り替えます。これらの手続きが遅れると、契約更新や資金移動に支障が生じるおそれがあります。
こうした名義変更の中でも、金融機関との連帯保証の扱いは慎重に対応しましょう。近年は「経営者保証に関するガイドライン」の運用が進んでおり、一定の財務要件を満たせば、新代表者の個人保証を不要または軽減できる可能性があります。
金融機関から求められるまま保証を引き受けるのではなく、専門家と連携して交渉を行い、新経営者の個人リスクを最小限に抑えることが重要です。
代表取締役死亡後に残された会社をどうするか

代表取締役の死亡後、会社に債務が残っている場合、「会社の事業を継続するのか」「法的に整理するのか」「第三者へ承継して債務問題を解消するのか」は、遺族および従業員の将来に直結する重大な経営判断となります。
ここでは、会社の債務状況・後継者の有無・事業の収益性といった客観的な視点から、代表取締役死亡後に選択される3つの選択肢を解説します。
1. 新しい代表を選び、会社をそのまま継続する
会社に一定の収益力があり、借入金の返済見込みが立つ場合は、債務を引き継いだうえで事業を継続するという選択肢が望ましいでしょう。
この場合、配偶者や子ども、共同経営者などが新たに代表取締役へ就任することになります。ただし、事業を引き継ぐと経営権だけでなく、金融機関からの信用や返済責任を背負う覚悟が必要です。
先代の代表取締役が負っていた連帯保証の巻き直しを求められるため、「経営者保証ガイドライン」を活用し、個人保証の免除や保証額の減額を交渉できるかが重要になります。
2. 法人破産や特別清算で会社を整理する
借入金が資産を大幅に上回り、返済の見通しが立たない場合には、法人破産や特別清算によって会社の債務を法的に整理する必要があります。
債務超過のまま事業を継続すると、遺族の個人資産を赤字補填に充ててしまい、結果として家族全体が経済的に行き詰まるリスクがあります。裁判所の管理下で会社を終了させる法人破産や特別清算は、債権者に対しても適切で誠実な対応といえるでしょう。
なお、先代の代表取締役が連帯保証人であった場合は、相続人に債務が残りますが、返済が困難な場合には自己破産や債務整理などを併用することも有効です。
法人破産については、以下の記事でわかりやすく解説しています。
法人破産とはどういう手続き?費用相場やメリット・デメリット、スケジュールを解説 | 千代田中央法律事務所
3. 株式譲渡やM&Aで第三者に会社を引き継ぐ
親族内に後継者がいない一方で、債務はあるものの事業自体に価値がある場合には、株式譲渡や事業譲渡によるM&A(第三者承継)が有力な選択肢となります。
会社を清算すれば従業員は解雇となりますが、M&Aであれば雇用を維持したまま債務問題を解消できる可能性があります。また、買い手が会社の借入金とともに連帯保証を引き受けることで、遺族が個人保証から解放される点も魅力です。
さらに、株式の売却によって得た資金を、相続税の納税資金や生活再建資金に充てられる点も遺族にとってメリットといえるでしょう。
M&Aの流れや成功ポイントについて、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
M&Aの流れを9つのステップに分けて解説|成功ポイントも紹介 | 千代田中央法律事務所
いつ起こるかわからない代表取締役の死亡に備えて会社財産について確認しておくべきこと

代表取締役の死亡は、突然起こり得るリスクです。役員貸付金や自社株、退職金の扱いを事前に把握していないと、相続税や資金繰りでトラブルに発展します
ここでは、突然起こり得る代表取締役の死亡に備えるポイントを解説します。
会社への役員貸付金や預け金の有無
代表取締役が亡くなる前に、会社への役員貸付金や預け金の有無を確認しておかないと、遺族に相続税だけが残ります。
代表取締役が私財で会社の資金繰りを支えている場合、その金額は役員貸付金として会社に対する債権です。代表取締役が死亡すると、この貸付金は相続財産として課税対象となり、たとえ会社に返済能力がなく実質回収できなくても、原則として帳簿額で相続税が計算されます。
突然の相続で遺族が困惑しないよう、決算書を確認し、貸付金や借入金を事前に把握しておくことが重要です。
自社株の評価額と相続税への影響
自社株の評価額や相続税への影響を事前に把握していないと、代表取締役の死亡後に高額な相続税だけが一気に発生します。
非上場の自社株は換金しにくい一方、相続税評価では高額するケースがあります。たとえば、内部留保が多い場合や古くに取得した土地・保険積立金を保有している場合、株価が跳ね上がり、代表取締役の死亡と同時に多額の相続税が発生します。
その結果、後継者が納税資金を確保できず、資産売却や借入を余儀なくされ、事業継続に支障が出るケースもあるでしょう。代表取締役の突然の死亡に備え、事前に株価を試算し、事業承継税制や生前贈与の検討を進めておくことが重要です。
死亡退職金や弔慰金の支給規程の有無
代表取締役の死亡に備えて、死亡退職金や弔慰金の支給規程を整えておかないと、遺族へ十分な資金を残せないおそれがあります。
死亡退職金や弔慰金は、代表取締役の死亡後、遺族の生活費や相続税の納税資金として重要な役割を果たします。死亡退職金には「500万円×法定相続人」の非課税枠がありますが、退職金規程が整備されていない場合、支給の可否や金額を巡って実務・税務上のハードルが高くなるでしょう。
弔慰金についても、社会通念上相当とされる非課税枠を超える部分は課税対象となります。突然の事態に備え、支給規程の整備と法人保険の活用をセットで行い、確実に遺族へ資金が届く仕組みを整えておくことが重要です。
代表取締役が死亡した場合の会社の債務に関するよくある質問

代表取締役が死亡した場合の会社の借金や返済について、「有限会社だから責任が重いのでは?」「社長が亡くなったら返済は止まる?」といった疑問がある方もいるでしょう。
ここでは、疑問を抱えやすいテーマを取り上げ、法的な原則と実際の対応をQ&A形式でわかりやすく解説します。
Q. 有限会社の代表取締役が死亡した場合の会社の借金はどうなる?
Q. 代表取締役が死亡しても会社は借金返済を続けなければならない?
Q. 代表取締役が死亡すると会社は解散しなければならない?
Q. 有限会社の代表取締役が死亡した場合の会社の借金はどうなる?
A. 有限会社の代表取締役が死亡した場合でも、会社の借金が自動的に遺族へ引き継がれることはありません。
原則有限会社は、特例有限会社として扱われ、株式会社と同様に法人格の独立性と社員の有限責任が認められています。
ただし、代表取締役個人が金融機関の借入に連帯保証を付けているケースもあり、その場合の債務は相続の対象です。会社形態に惑わされず、契約書の保証人欄を確認することが重要です。
Q. 代表取締役が死亡しても会社は借金返済を続けなければならない?
A. 代表取締役が死亡しても、原則として返済義務は継続します。
銀行融資は法人と金融機関の契約であり、代表者が死亡しても会社が存続する限り、約定どおり返済する必要があります。ただし実務上は、代表者死亡をきっかけに法人口座が一時的に制限され、返済が滞るリスクがあるでしょう。
返済不能と誤解されると、延滞扱いとなり信用低下につながります。そのため遺族や後継者は、代表取締役が死亡した場合はすみやかに金融機関へ連絡し、債務の返済方法を協議することが不可欠です。
Q. 代表取締役が死亡すると会社は解散しなければならない?
A. 代表取締役が死亡したからといって、会社は必ず解散する必要はありません。
会社法上、代表取締役の死亡は退任理由にすぎず、後任を選任して登記すれば会社を存続できます。
また、役員変更登記を怠ると過料の対象となり、長期間放置すればみなし解散とされる可能性もあるため、放置するのは避けましょう。会社を存続するか解散するか、いずれの場合も必ず法的手続きを行う必要があります。
まとめ

代表取締役が死亡しても、会社の借金すべてが自動的に遺族へ引き継がれるわけではありません。個人借入か連帯保証が付いた債務かどうかで、その後の対応が分かれます。
まずは借入内容と保証の有無を正確に確認し、負債が大きい場合は相続放棄などの制度を期限内に検討することが重要です。
代表取締役が死亡し債務が残っている場合は早い段階で専門家に相談しましょう。借金の内容や保証の有無、相続人の責任範囲を正確に整理したうえで、その後の対応を判断することが家族と会社を守るために重要です。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

