会社が倒産しても、従業員が退職金を受け取れる可能性はあります。
この記事では「倒産したら退職金はなくなってしまうのか?」「どのくらいの金額がもらえるのだろう?」など、会社倒産時の退職金の扱いについて解説します。
未払賃金立替払制度や中小企業退職金共済といった、公的制度や必要な手続きの概要や請求方法についてもまとめています。
従業員の方も企業の担当者の方も、いざというときに備えて、会社倒産に伴う退職金について把握しておきましょう。
会社が倒産しても退職金はもらえる?
「会社が倒産した場合の退職金の扱い」について、基本的な考え方を解説します。
以下でそれぞれをみていきましょう。
【原則】退職金を受け取る権利は消滅しない
会社が倒産しても、従業員が退職金を受け取る権利そのものは消えません。
なぜなら、会社の就業規則や退職金規程にもとづいて定められている退職金は、毎月受け取る給料と同じように賃金の一部として考えられるからです。
これは、会社と従業員の間で交わされた労働契約にもとづく正当な権利であり、経営上の理由(倒産)によって、この権利を一方的に無効にすることは原則としてできません。
実際には会社の財産状況によっては実際に全額を受け取れない可能性もありますが、権利そのものが最初から否定されるわけではない、ということを理解しておくことが大切です。
【例外】会社の財産状況により支払われないケースもある
会社が倒産しても退職金を受け取る権利は原則として残りますが、権利があるからといって、実際に支払いを受けられるとは限りません。
会社が倒産に至ったということは、多くの場合、深刻な財政難に陥っていることを意味します。
そのため、会社に従業員へ支払うための財産が残っていなければ、たとえ退職金を受け取る権利があったとしても、支払われない(支払えない)という可能性は十分あるでしょう。
会社に残っている財産は、以下のような優先順位で分配されるのが一般的です。
| 優先順位 | 債権の種類(例) | 概要 |
|---|---|---|
| ↑高い ↓低い | 財団債権 | ・破産手続きを進めるための費用 ・滞納していた税金 ・社会保険料など |
| 優先的破産債権 | ・未払いの給料 ・退職金(一部)など | |
| 一般的破産債権 | ・取引先への未払い金 ・担保のない借入金など | |
| 劣後的破産債権 | ・破産手続き開始後の利息 ・損害金など |
労働基準法にもとづき、未払いとなっている給料や退職金のうち特定の範囲は、破産手続において税金や社会保険料に次いで優先される債権として扱われます。
なお、特定の範囲とは毎月決まって支払われるべきだった通常の給料や手当など、とくに重要とみなされる賃金のことです。
優先順位が高いものの、税金や担保を持つ金融機関への返済などがさらに優先される場合があります。
そのため従業員への支払いの順番が来る前に、分配すべき財産が底をついてしまうことも考えられるでしょう。
救済措置「未払賃金立替払制度」とは?
会社が倒産するなど、万が一の事態に備えて、国による救済措置が用意されています。
ここでは、その具体的な制度である「未払賃金立替払制度」を紹介します。
未払賃金立替払制度の概要については、厚生労働省のページもあわせてご覧ください。
未払賃金立替払制度の概要
未払賃金立替払制度とは、会社の倒産によって賃金や退職金が受け取れない従業員に対して、その賃金の一部を一時的に支払ってくれる国の制度です。
この制度は、会社の倒産という予期せぬ出来事に遭遇した労働者の生活を守るための、セーフティーネットとして設けられています。
ただし、この制度はあくまで「立替払い」となり、代わりに支払った分のお金は、後日倒産した会社やその代理人(破産管財人など)に対して請求することになります。
制度に関する相談や申請手続きは、全国にある労働基準監督署が窓口の一部となっているため、実際に利用を検討する際は最寄りの窓口に問い合わせしてみてください。
利用できる条件
未払賃金立替払制度を利用するには、いくつかの条件を満たす必要があります。
大きくわけて「会社側の条件」と「労働者側の条件」があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社側の条件 | ・法律上の倒産手続きが裁判所によって認められていること ・事業活動が停止し再開の見込みがなく、賃金の支払い能力がない状態だと労働基準監督署長が認定した「事実上の倒産」であること ・その会社が1年以上にわたって事業をおこなっていたこと |
| 労働者側の条件 | ・法律上の倒産の申立て日や事実上の倒産の認定申請日の「6か月前の日から2年の間」にその会社を退職していること |
条件にあっているかどうかを確認したうえで、申請をおこないましょう。
対象となる給与
未払賃金立替払制度によって国が立て替えてくれる給与には、条件があります。
以下の表に、対象・対象外の給与の区分をまとめました。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 立替払いの対象となるもの | ・毎月決まって支払われる基本給 ・家族手当、通勤手当、役職手当などの各種手当(定期的なもの) ・就業規則や労働契約で定められた退職金 ※これらが未払いであり、かつ上記の期間内に支払日が到来している必要がある |
| 立替払いの対象とならないもの | ・賞与(ボーナス) ・解雇予告手当 ・結婚祝金などの福利厚生的な給付 ・出張費や交際費などの経費精算分 ・会社の役員として受け取っていた報酬(従業員兼務の場合、従業員分の賃金は対象となる可能性あり) |
この制度は労働者の基本的な生活を支えるための定期的な収入(給料)と、退職後の生活設計の基礎となる退職金を優先的に保護することを目的としています。
そのため、この基準に沿って対象となるもの、対象にならないものに分けられているのです。
立替払される金額
未払賃金立替払制度で立て替えてくれる金額には、制限があります。
以下に年齢と上限額をまとめました。
| 退職時の年齢 | 未払賃金総額の上限額 | 立替払いの上限額(上限額の8割) |
|---|---|---|
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
なお、この上限額は2025年5月現在の情報です。今後、金額が変更される可能性もあるため、最新の情報を確認するようにしてください。
利用時の注意点
未払賃金立替払制度は、いざというときに頼りになる制度ですが、利用する際にはいくつか注意しておきたい点があります。
重要なのが請求期限で、原則として倒産等の事実に関する認定日などの翌日から起算して2年以内という厳格な期限があります。
この期限を1日でも過ぎてしまうと、たとえ他の条件を満たしていても制度を利用できなくなってしまいますので、早めの行動が肝心です。
次に、必要書類の準備をしっかりおこなうことです。
申請には、立替払請求書のほか、未払い賃金額を証明する資料、本人確認書類など複数の書類が必要となるため不備なく準備しましょう。
また、税金の扱いについても理解しておく必要があります。
この制度で受け取った立替払金は、元々支払われるはずだった賃金と同様に扱われ、所得税の課税対象となります。
場合によっては確定申告が必要になることもあるため、自身の勤務や所得の状況にあわせて確認しましょう。
中小企業退職金共済(中退共)とは?
ここでは、未払賃金立替払制度と同様に、従業員を守るセーフティーネットのひとつである中小企業退職金共済(中退共)について解説します。
従業員の退職金に関わる大切な制度であるため、基本的な仕組みを知っておきましょう。
中小企業退職金共済(中退共)制度の概要
中小企業退職金共済制度は、自社だけで退職金制度を整えることが難しい中小企業で働く方々のために作られた公的な退職金制度です。
この制度に加入している場合、勤め先の会社からではなく、中退共から直接退職金が支払われる仕組みになっています。
つまり、会社の経営状況が悪化したり万が一倒産してしまった場合でも、従業員の退職金が比較的安全に守られるというメリットがあります。
中退共への加入状況の調べ方
従業員自身が中退共への加入状況を確認するには、主に3つの方法があります。
| 確認先 | 調べ方 |
|---|---|
| 会社から中退共への確認 | 従業員の氏名や加入年月日、加入者番号などが記載されている「退職金共済手帳」または「被共済者証(加入者証)」を受け取っているかどうかを確認する |
| 従業員から会社の総務部や人事部などへの確認 | 自社の担当部署に問い合わせる |
| 中退共の事業本部への照会 | 事業本部へ電話や郵送などで直接問い合わせる |
会社側は迅速に従業員に対して、これら必要な情報を提示しましょう。
中退共の退職金はいつ支払われる?
中退共に提出した書類に不備がなければ、通常は4週間程度で指定した口座に退職金が振り込まれます。
前提として、退職金を受け取るためには、退職した本人(または亡くなられた場合はご遺族)が、中退共に対して「退職金を支払ってください」という請求手続きをおこなう必要があります。
会社が倒産したとしても、自動的に退職金が振り込まれることはありません。
なぜなら、退職金を受け取る権利はあくまで退職した本人にあり、その権利を行使する意思を示す必要があるからです。
どの金融機関の口座に振り込んでほしいかといった情報も、請求時に本人が指定しなければならないため、まずは手続きを開始させることが肝心です。
会社倒産時、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)はどうなる?
会社が倒産した場合、iDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型DCの資産がどのように扱われるのかについて解説します。
以下で詳しくみていきましょう。
従業員の個人型確定拠出年金(iDeCo)には影響しない
勤務先の会社が倒産したとしても、従業員個人がiDeCoで積み立ててきた資産には影響はありません。
なぜなら、iDeCoは個人の年金制度であり、個人の意思で加入し掛金を支払っている制度だからです。
会社が関与するのは、iDeCoに加入する際に必要な書類(事業主の証明書など)に記入・捺印するといった事務的な手続きの部分だけであり、従業員個人のiDeCo資産の管理や運用には無関係です。
企業型DCは差し押さえの対象にならない
企業型DCで積み立てられた従業員の年金資産は、会社が倒産したとしても差し押さえられたり、債権者への支払いに充てられたりすることはありません。
これは確定拠出年金法という法律によって、従業員の年金資産を会社の財産とは明確に分けて管理することが、義務づけられているからです。
会社が社内で積み立てるタイプの退職金とは異なる仕組みであり、企業型DC(確定拠出年金)の大きなメリットです。
ただし、会社が倒産すると企業型DC制度そのものが通常は終了となります。
従業員は、iDeCoに移すか転職先の企業型DC制度に移すといった移換の手続きをおこなう必要があります。
会社倒産関連の手続きに関するよくある質問
最後に、会社の倒産に関するよくある質問について、回答します。
なお不明な点があれば、早めに会社の担当者に問い合わせしておくのが確実です。会社側は、従業員に対してスムーズな情報提供を心がけましょう。
Q. 解雇予告手当とはなんですか?
A. 解雇予告手当とは、労働基準法で定められている、従業員を保護するための制度(手当)です。
会社が従業員を解雇する場合、原則としてその少なくとも30日前に本人に予告しなければならないと定められています。
もし会社がこの30日前の予告をせず、突然解雇する場合、その不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。
手当の額は1日分の平均賃金に、30日に満たない日数を掛けて計算されます。
※平均賃金は通常、直近3か月間の賃金総額をその期間の総日数で割った額。
会社が倒産した場合でもこのルールは原則適用されますが、会社に支払い能力がない場合は受け取れない可能性があります。
Q. 会社倒産時に退職金をもらったら、確定申告が必要ですか?
A. 退職金を受け取る際に「退職所得の受給に関する申告書」という書類を、支払元に提出していれば、確定申告は原則不要です。
この申告書を提出していれば、支払う側が従業員の退職所得控除額などを計算し、適切な所得税額を差し引いてから支払ってくれます。
もし、この申告書を提出しなかった場合は、退職金の額面に対して一律20.42%の高い税率で源泉徴収されてしまいます。
その場合は、後に自分で確定申告をして、払いすぎた税金を取り戻す(還付を受ける)ことが可能です。
また、退職所得の受給に関する申告書を提出していても、他に申告すべき所得がある場合や、医療費控除などを受けたい場合は確定申告が必要です。
個々の状況により、確定申告の要・不要が決まるため、不明な場合は管轄の税務署に確認するのが確実でしょう。
Q. 会社倒産時の退職金はいつ頃もらえますか?
A. 退職金がいつもらえるかという問いに対して明確な時期を示すことは難しいのが実情です。
倒産した会社が、どのような法的な倒産手続きを進めるか、どれだけの財産が残っているかなどによって、状況が大きく変わるためです。
従業員の未払い給料や退職金の一部は、比較的優先順位が高い債権とされていますが、そもそも配当できる財産がなければ支払われません。
従業員にとっては金銭的にも不安な日々となってしまうため、まずは取り巻く環境をよく理解しましょう。
そのうえで、未払賃金立替払制度の申請手続きを早急に進めることができれば、未払い賃金の一部を比較的早期に受け取れる可能性が高まります。
まとめ
会社の倒産は、従業員にとって非常に不安な出来事です。退職金を受け取る権利は原則として消滅しないことを理解しておくだけでも、不安を拭えるでしょう。
ただし会社の財産状況次第では全額受け取れない可能性もあります。そのようなとき頼りになるのが未払賃金立替払制度です。また、中退共に加入している場合は、会社とは別に退職金を受け取れます。
万が一の事態に備え、これらの制度内容や手続きについて事前に情報収集を進めておくことが、冷静な対応と生活の安定につながるでしょう。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

