個人事業主や中小企業の役員の退職金制度として「小規模企業共済」があります。小規模企業共済は掛金が税控除の対象になったり、低金利で貸付を受けられたりするのがメリットです。
拠出してきた共済金は退職時に受け取るのが一般的ですが、会社が潰れた場合は、どのように扱われるのでしょうか。この記事では、会社が潰れる際の小規模企業共済の扱いや受け取りについて解説します。
会社が潰れると小規模企業共済は受け取れる?

会社が潰れると、小規模企業共済は受け取れるのでしょうか。法人の解散・廃業時の共済金の有無やポイントを解説します。
法人の解散・廃業時は共済金が受け取れる
法人が解散・廃業する際も、小規模企業共済の共済金受取は可能です。個人事業主の廃業や法人の解散は、小規模企業共済制度が定める正当な請求事由に該当します。
小規模企業共済は、事業をやめた経営者のための退職金準備を目的としており、会社の倒産はまさにその利用シーンとして想定されています。
「小規模企業共済法」という法律にもとづき、事業の廃止や会社の解散といった理由で請求する場合、「共済金A」という区分が適用されるのが一般的です。
拠出した掛金が無駄になることはないため、安心して共済金の請求手続きを進めましょう。
廃業時の共済金は基本的に元本割れしない
事業の廃業や会社の解散を理由に共済金を受け取る場合、元本割れは基本的に起こりません。
廃業時に受け取る共済金は、前述のとおり「共済金A」です。共済金Aは、6ヶ月の最低加入期間を越えていれば、元本が保障されます。
たとえば、掛金納付年数が10年、掛金額が月1万円で、10年目で廃業した場合と10年目で中途解約した場合、受け取れる共済金は以下のようになります。
| 元本 | 共済金額 | |
|---|---|---|
| 廃業 | 120万円 | 129万600円 |
| 中途解約 | 120万円 | 102万円 |
小規模企業共済においては、廃業自体は損をする選択肢ではないといえるでしょう。
小規模企業共済自体が潰れる可能性はある?

会社が潰れても小規模企業共済は受け取れますが「小規模企業共済自体が潰れたら?」と不安を抱く人もいるでしょう。しかし、小規模企業共済が潰れる可能性は非常に低いです。
小規模企業共済は民間企業が運営する金融商品ではなく「小規模企業共済法」にもとづいて運営されています。加えて、運営は国が全額出資する「独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)」が担っています。
令和6年3月末現在で、在籍人数は約166万人、資産運用残高は約11兆6927億円となっており、運営自体は健全に行われています。
制度自体がなくなる可能性は、限りなく低いと考えてよいでしょう。そのため、安心して掛金を拠出できます。
会社が潰れた際の小規模企業共済の扱い

会社が潰れた際は、基本的に小規模企業共済の共済金は保護されます。しかし、一部のケースでは共済金の受取権利が差し押さえられるケースもあるようです。会社が潰れた際の小規模企業共済の取り扱いを解説します。
差し押さえ対象外のため共済金は守られる
事業に失敗し、多額の借金を抱えて自己破産するような事態に陥っても、経営者が積み立てた小規模企業共済の共済金・解約手当金を受け取る権利は、法律で守られています。
具体的には、「小規模企業共済法」第15条に、共済金受取の権利は譲渡や担保提供、そして差し押さえができない「差押禁止債権」として定められています。
国が共済制度を、経営者にとってのセーフティネットとして設計しているからです。
会社の倒産によって金融機関や取引先から訴えられ、預金や不動産が差し押さえられても、共済金には手をつけられません。退職金とは異なる性質を持つため、加入する経営者も安心して事業に挑戦できるのです。
税金滞納など例外のケースもある
基本的に共済金は差し押さえの対象外となりますが、例外も存在します。注意が必要なのが、国税や地方税といった税金の滞納です。
税金の徴収に関する権利は、個人の借金などよりも法的に強いものです。国や地方自治体による滞納処分は、この差押禁止のルールよりも優先されます。
もし、税金を長期間にわたって支払わず、税務署や役所からの督促にも応じなかった場合、最終的に共済金を受け取る権利が差し押さえられ、滞納した税金の支払いに充てられる可能性があります。
共済金制度はあくまで経営者の退職金を用意する制度であり、納税という国民の義務を免除するものではありません。共済金が差し押さえにならないよう、納める義務のあるものは適切に納付してください。
会社解散を理由に共済金を受け取る際の注意点

会社の解散を理由に共済金を受け取る場合、以下の3点に注意しましょう。
それぞれの注意点について解説します。
1. 廃業手続きを適切に済ませる
小規模企業共済の共済金を廃業という形で受け取る際は、廃業の手続きを完了しておく必要があります。
請求先の独立行政法人中小企業基盤整備機構が、請求者が正当な理由で共済金を請求しているか、公的な書類で客観的に確認するためです。
個人事業主であれば所轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)」を提出し、法人であれば法務局で「解散登記」を済ませておかなければなりません。
口頭での申告や事業を停止しただけの状態では、廃業による受け取りが認められません。
手続きを怠ると、任意解約扱いになったり、請求自体ができなかったりするリスクがあります。忘れずに廃業手続きを済ませて、共済金を受け取るようにしましょう。
廃業手続きの流れと必要書類│法人、個人事業主の違いや適切な相談先について | 千代田中央法律事務所
2. 受取時には税金がかかる
会社を解散して受け取る共済金は、全額が非課税になるわけではありません。受け取った共済金は所得とみなされ、所得税や住民税といった税金の対象となります。
ただし、共済金には所得額を大きく控除できる「退職所得」として扱われるため、課される税金はあまり多くありません。退職所得には、退職所得控除が適用され、少なくとも80万円以上が控除されます。
加えて、課税対象となる退職所得は受取額から控除額を引いた金額を2分の1にしたものであり、最終的な税負担は軽くなります。
かかる税金は決して多くないですが、すべての金額が非課税になるとは限らないため、注意しましょう。
3. 破産手続き中は受取前に弁護士に確認する
破産手続き中に小規模企業共済の共済金を受け取る際は、事前に弁護士に確認したうえで受け取るようにしてください。
共済金を受け取る権利は法律で保護され、債権者に差し押さえられることは基本的にありません。しかし、破産手続き中は、すべての財産を正直に裁判所と破産管財人に開示する義務があります。
報告を怠って勝手に共済金を受け取ってしまうと、財産を隠した(財産隠匿)とみなされ、借金の免除(免責)が認められなくなる可能性があるのです。
弁護士に相談すれば、共済金が法的に保護された「自由財産」であることを主張し、安全に手元に残すための適切な手続きを進めてくれます。
安全に共済金受け取りの権利を行使するためにも、必ず弁護士へ相談するようにしましょう。
会社解散・廃業で小規模企業共済を受け取る手順

会社を解散・廃業して小規模企業共済を受け取る際は、以下の手順で手続きします。
手続きは書類の請求などを含むため、多少時間がかかります。一つひとつ丁寧に進め、共済金を無事に受け取りましょう。
1. 添付書類を準備する
はじめに、共済金の請求に必須となる公的な証明書類を揃えましょう。必要書類は以下のとおりです。
- 事業の廃業や解散の事実を証明する書類
- マイナンバーを確認するための書類
運営主体である中小機構が「本人が請求しているか」「廃業という正当な理由に該当するか」を確認するために、上記の書類が不可欠です。
個人事業主であれば税務署に提出した廃業届の控え、法人であれば法務局で取得する閉鎖事項全部証明書などを用意します。マイナンバーの確認には、マイナンバーカードのコピーなどを用意しておきましょう。
2. 請求書を入手して記入する
次に、中小機構から共済金等請求書の原本を取り寄せ、必要事項を記入します。
請求書はWebサイトなどからオンラインでダウンロードできません。共済金という重要な資産に関する手続きであるため、不正利用や間違いを防ぐ目的で、請求書は個別に管理・発行される仕組みになっているためです。
中小機構のコールセンターに直接電話をして郵送してもらうか、加入時に手続きを行った商工会・商工会議所、金融機関の窓口などを通じて取り寄せましょう。
請求書が手元に届いたら、氏名や住所、請求理由といった項目を記入してください。記入ミスや漏れは手続きの遅れを招くため、慎重に進めましょう。
3. 金融機関で口座確認印を受ける
請求書の記入が完了したら、共済金の振込先に指定したい金融機関の窓口へ持参し口座確認印を押してもらいます。金融機関が請求書に押印することで、口座が実在していること公的に証明できます。
確認印がないと請求書は受理されないため、忘れずに押印を受けてください。
4. 書類を提出する
最後に、これまで準備したすべての書類をまとめて、中小機構へ郵送します。書類が中小機構に到着した時点で正式な請求受付となり、審査と支払いの手続きが開始されます。
書類は普通郵便ではなく、郵便局の窓口で簡易書留や特定記録郵便といった、配達状況を追跡できる方法で送りましょう。万が一の郵便事故を防ぎ、重要な個人情報と権利を守るためです。
郵送前には、封入する書類のリストを再度確認して、不備がないようにしてください。
書類提出後3〜4週間ほどで、指定口座に共済金が振り込まれます。
小規模企業共済の受け取りを考える前に!会社が潰れるのを避ける方法

小規模企業共済は会社を解散・廃業する際でも受取可能です。しかし、会社を潰すということは、自身の収入や生活だけでなく、従業員の仕事や生活にも影響をおよぼします。
会社を潰すことを選択する前に、別の選択肢を検討して債務整理などを行い、事業の立て直しを図ることも検討してみるとよいです。
解散・廃業以外の選択肢として、2つの債務整理方法を解説します。
民事再生で会社を残して債務を整理する
資金繰りの悪化によって会社を畳もうか考える際は、事業を継続しながら再建を目指す「民事再生」の選択肢も検討してみましょう。
民事再生は、裁判所の監督のもとで再生計画を立て、債権者の合意を得ながら、大幅に減額された債務を長期分割で返済していく手続きです。
自己破産や会社解散が事業の清算を目的とするのに対し、民事再生は事業の再建を目的としています。そのため、現在の経営者がそのまま事業経営を続けられる可能性があるのが特徴です。
たとえば、事業自体に将来性はあるものの、多額の借入金によって経営が圧迫されている場合、民事再生によって再起の道が開ける可能性があります。会社が潰れるという事態を避けるためには、有効な手段のひとつとなるでしょう。
民事再生は法的な専門知識を要するため、事業再生に詳しい弁護士などの専門家へ速やかに相談し、自社が適用可能か検討することが重要です。
任意整理による返済を目指す
裁判所が関与する法的手続きに抵抗がある場合や、債務の状況がまだそれほど深刻でない場合には任意整理で会社の倒産を回避できる可能性があります。
任意整理とは、弁護士などが代理人となり、裁判所を介さず、金融機関などの債権者と直接交渉を行う手続きです。
交渉により、将来発生する利息のカットや、月々の返済額の減額、返済期間の延長といった、無理のない返済計画への変更を目指します。
任意整理は、民事再生に比べて手続きが迅速に進みます。加えて、費用も安く、債務に関する話題が公になりにくいのがメリットです。
たとえば、複数の金融機関からの借入返済に窮している経営者が、弁護士を通じて交渉して月々の負担を軽減できれば、廃業せずに事業を継続できるかもしれません。
任意整理は、経営状況が手遅れになる前に、早期に専門家へ相談することがポイントです。会社を潰すかどうか決める際には、あわせて検討すべき選択肢といえるでしょう。
法人の債務整理とは?費用内訳や種類、メリット・デメリットを解説
まとめ

小規模企業共済は、会社が潰れても共済金の受け取りが可能です。差し押さえの対象にならない、元本割れがほとんどないといったことから、中途解約するよりも有利に受け取れます。
一方、会社の廃業は慎重な判断が必要です。千代田中央法律事務所では、法人破産や廃業に関する相談を受け付けています。
初回相談は無料なので、経営が厳しく会社を畳もうか考えている人は、小規模企業共済金の受け取りも含めてご相談をお待ちしております。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

