人手不足倒産とは、採用難や退職増、人件費高騰などで現場が回らず、黒字でも資金繰りが崩れて事業継続が難しくなる倒産です。
本記事では、人手不足倒産の定義や最新の動向、4つの主な原因、人手不足を回避するための具体策まで詳しく解説します。
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人手不足倒産とは?

人手不足倒産とは、採用難や従業員の退職、人件費の高騰などによって必要な人員を確保できず、事業運営や資金繰りが立ち行かなくなり倒産に至る状態を指します。
ここでは、人手不足倒産の現状と、黒字倒産との違いをわかりやすく解説します。
人手不足倒産の現状
東京商工リサーチによると、2025年に入り人手不足関連の倒産は急増しており、1〜11月の累計は359件と過去最多を更新しました。11月単月でも34件と前年同月比70%増となり、6ヶ月連続で前年を上回っています。
内訳を見ると、「人件費高騰」「求人難」「従業員退職」のすべてが増加しており、とくに人件費高騰と従業員退職は大幅な伸びを示しています。
賃上げや労働環境改善で不利な立場にある中小・零細企業ほど影響は深刻で、資本金1,000万円未満の企業が約6割を占めました。賃金格差が拡大するなか、人手不足は構造的な倒産リスクとして定着しつつあります。
参考:「2025年1-11月の「人手不足」倒産 359件 サービス業他を主体に、年間400件に迫る」|東京商工リサーチ
黒字倒産との違い
人手不足倒産は、決算書上は黒字でも倒産に至る点で黒字倒産と共通しますが、倒産の引き金が人手不足にある点が大きな違いです。
一般的な黒字倒産は、売掛金の回収遅れや、支払いよりも入金が先に発生する収支サイクルのズレによる資金繰りの悪化が主な要因となります。
一方、人手不足倒産では、人員不足によって工期遅延や品質低下が発生し、その結果、違約金・外注費・残業代が増加して資金繰りが悪化します。人手不足が経営リスクを連鎖的に拡大させる点が、人手不足倒産の特徴です。
黒字倒産については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
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人手不足倒産の種類と主な原因

人手不足倒産の原因は、複数のタイプに分かれます。原因を正しく理解し、適切な対策を打ち出すことが可能です。
ここでは、人手不足倒産を以下の代表的な4つの種類に分けて、原因を解説します。
自社がどのリスクに近いのかを把握することで、次に取るべき対策が明確になるでしょう。
1. 人件費の高騰が原因の「人件費高騰型」
人件費高騰型とは、賃上げや最低賃金の上昇に耐えきれず、利益が出ていても資金繰りが行き詰まる倒産のタイプです。
物価高や大手企業の賃上げを背景に、中小企業も人材流出を防ぐためベースアップを迫られています。しかし、提供価格の改定が進まないまま人件費だけが膨らむと、利益を削って給与を支払う状態に陥ります。
運転資金が減少すると、借入返済や支払いが滞るため、原材料費と人件費が同時に上昇する製造業やサービス業では発生しやすいでしょう。
2. 労働力人口の減少が原因の「採用難型」
採用難型とは、人材を確保できず、仕事はあるにもかかわらず事業を回せなくなる倒産のことです。
生産年齢人口の減少に加え、若年層の職業選択の多様化により、建設・運送・介護などの労働集約型産業では応募そのものが集まりにくくなっています。求人広告を出し続けても人が来ず、受注を断らざるを得ない状況になります。
売上が徐々に縮小し、固定費を賄えなくなれば、黒字見込みでも事業継続を断念せざるを得ないでしょう。
3. 離職率と定着率の悪化が原因の「従業員退職型」
従業員退職型は、既存社員の離職が連鎖し、組織が崩壊することで起こる倒産です。
慢性的な人手不足により1人当たりの業務負担が増え、長時間労働や職場環境の悪化が続くと、社員は将来に不安を感じて退職する可能性が高まります。とくに、現場責任者や経理などのキーマンが抜けると業務が回らなくなり、残された社員への負荷がさらに増大します。
負担が増加し続ければ連鎖的に退職が起き、事業を停止せざるを得ないケースもあるため、人件費高騰や採用難以上に深刻なリスクのある倒産のタイプです。
4. 後継者不在が原因の「後継者難型」
後継者難型とは、黒字であっても事業を引き継ぐ人が見つからず廃業に至る倒産です。
中小企業では経営者の高齢化が進む一方、親族内承継の減少や従業員承継の難しさが問題となっています。とくに慢性的な人手不足に悩む企業は、将来が不安な会社と判断され、後継者候補からも避けられるおそれがあります。
社長が引退や病気をきっかけに廃業を選択するケースもあり、人手不足は事業承継を難しくする要因のひとつです。
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人手不足倒産が近い会社に見られる主な前兆

人手不足倒産が近い会社には、以下のような前兆が見られます。
前兆を把握しておくことで、早めにリスクを察知し、対策をすばやく実施しやすくなるでしょう。
潰れる会社に見られる前兆については、以下の記事でわかりやすく整理しているのでご覧ください。
潰れる会社に見られる9つの前兆|経営者がするべき行動や対策を解説 | 千代田中央法律事務所
求人募集を出し続けても人が集まらない
求人を出しても応募が来ない状態は、人手不足倒産の初期段階を示す危険信号です。
求人応募がない状態は、一時的な不調ではなく、給与・休日・労働環境などの条件が市場水準から乖離し、求職者に選ばれていない可能性があります。とくに半年以上続く万年求人は、離職率が高い会社だと警戒されやすく、求職者も応募を避けるおそれがあります。
求人を出しても応募が来ない状態が続く場合は、広告費を増やしても効果は薄く、条件やターゲットの抜本的な見直しが不可欠です。
従業員の退職が相次ぎ業務が回らない
従業員の退職が続く状況は、人手不足倒産が迫っている極めて危険な兆候です。
若手や中堅、管理部門の退職が重なる場合、それは単なる個人都合ではなく、職場環境や将来性に対する不信が表面化している可能性があります。ひとりが辞めることで残された社員の業務負荷が増し、疲弊が進むことで、さらなる退職を招くかもしれません。
この段階では、新規採用を急ぐよりも、既存社員との対話や慰留を優先し、組織の傷口を塞ぐ対応が不可欠です。
管理職やベテラン社員の負担が急増している
管理職やベテラン社員の負担増加は、会社が限界状態に近づいているサインです。
人手不足を補うために、管理職が現場作業に追われたり、残業や休日出勤が常態化したりすると、本来のマネジメント機能が失われます。責任感の強い人材ほど無理を重ねやすく、過労や燃え尽きによる突然の離脱が起きると、現場は一気に機能停止するおそれがあります。
この兆候が見られる場合は、受注制限や業務の簡素化などを含め、意図的に負担を減らす判断が求められるでしょう。
外注費が急激に膨らんでいる
外注費の急増は、人手不足が黒字倒産に直結する危険なサインです。
人員不足のまま受注を続けると、社内で回らない業務を割高な外注に依存せざるを得なくなります。その結果、売上が伸びていても利益が残らず資金流出が加速するでしょう。とくに建設業や運送業では、納期優先で採算を無視した外注が常態化しやすい傾向があります。
外注費が恒常的に増えている場合は、一時的な対応ではなく、内製化や事業規模の見直しが必要です。
経営者が採用と現場対応に追われ本業が停滞している
経営者自身が現場対応や採用に追われている状態は、経営が機能不全に陥っている可能性があります。
人手不足が深刻化すると、社長が現場の穴埋めや面接対応に時間を取られ、資金繰り管理や経営計画といった本来の役割が後回しになります。その結果、経営判断が遅れ、気付いたときには手遅れになるリスクもあるでしょう。
どれだけ業務が忙しくても、経営者は現場から距離を取り、数値と中長期戦略に向き合う時間を確保することが重要です。
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人手不足倒産しやすい業種と具体例

人手不足倒産は、すべての業種で同じように起こるわけではありません。業界特有の構造や人材への依存度によって、倒産リスクの高まり方には差があります。
ここでは、人手不足倒産が起きやすい代表的な業種を取り上げ、具体例とともに解説します。自社が同じ構造を抱えていないかを確認することで、早期の対策につなげられるでしょう。
人手依存度の高いサービス業
人手依存度の高いサービス業は、人手不足倒産にもっとも直結しやすい業種です。たとえば、飲食・介護・美容などは、人が動いた時間=売上となる労働集約型ビジネスであり、DXや機械化による省人化が難しく、人件費比率が高止まりしやすい傾向があります。
とくに、介護や保育のような公定価格事業では、賃上げをしても価格への反映ができず、利益を削って人件費を捻出するしかありません。
飲食業でも、最低賃金や原材料費の上昇を価格に反映できず、不採算店舗を抱えたまま倒産に至るリスクがあります。
技能人材の確保が難しい建設・製造業
建設業や製造業は、採用難と後継者難が重なりやすく、人手不足倒産のリスクが高い業種です。これらの業界では、施工管理技士のような資格や、長年の経験にもとづく熟練技能が不可欠ですが、若年層の採用が進まず現場は高齢のベテラン職人に依存している傾向があります。
たとえば、有資格の現場監督が引退して後任が見つからず、黒字の受注残を抱えたまま廃業したり、特定加工を担う職人の離脱で納期遅延が続き、取引停止に至ったりするなどが典型例です。
技術の属人化を放置すると、人が辞めれば倒産につながる構造になりやすい点に注意しなくてはいけません。
長時間労働が常態化しやすい物流・運輸業
物流・運輸業は、2024年問題による残業規制の影響を受け、人手不足倒産のリスクが急激に高まっている業種です。2024年問題とは、働き方改革関連法により、2024年4月からトラックドライバーにも、時間外労働の上限(原則年960時間)が適用されたことで生じる課題です。
物流・運輸業は、薄利多売で労働分配率が高く、ドライバーの長時間労働によって収益を維持してきた構造があります。しかし、労働時間が制限されたことで、走れる距離=売上が減少し、収益力が低下しました。
さらに残業代減少によって手取りが下がり、今よりも稼げる会社へ人材が流出する悪循環が生まれているのも実情です。
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人手不足倒産を回避するための具体的な対策

人手不足倒産は、放置すれば突然表面化しますが、打ち手を知り早期に行動すれば回避できるリスクです。
ここでは、資金・人材・組織・承継の観点から、中小企業が今すぐ実行できる現実的な対策を解説します。
自社の課題に合う施策を見極めることで、人が足りないから潰れる状況から脱却する道筋が見えてきます。
人件費を最適化し生産性を高める
人手不足倒産を防ぐためには、価格改定とDXを同時に進め、少人数でも利益が出る構造を作ることが重要です。
人件費高騰下で価格を据え置く経営は、利益を削り続ける危険な選択です。原材料費だけでなく人件費上昇分も含め、政府の価格転嫁指針を根拠に適正な値上げを行い、原資を確保する必要があります。
また、DXによる省人化で生産性を高めることも重要です。現場管理アプリや業務自動化ツールを活用すれば、移動・待機・事務作業を削減できます。浮いた時間とコストを賃上げや採用に回す循環を作ることが、人手不足倒産を防ぐ基本戦略です。
多様なチャネルを活用して採用力を強化する
人手不足倒産を回避するためには、応募を待つだけの採用をやめ、攻めの採用をすることが大切です。
求人媒体に出稿して待つだけの採用は、生産人口が減少しているなかでは限界があります。外国人材(特定技能)の活用や、社員紹介(リファラル採用)、自社採用サイトやSNS発信など、チャネルの多様化が不可欠です。
求職者は条件だけでなく、働く仲間や環境なども重視しています。現場の実態を可視化することで、ミスマッチを減らし定着率の向上にもつながります。採用難を打開するためには、採用費を広告だけでなく、さまざまな取り組みに活用していきましょう。
職場環境を改善して定着率を高める
人手不足倒産のリスクを下げるためには、新規採用も大切ですが、それと同時に今いる社員を守る取り組みも欠かせません。
人手不足倒産の多くは、採用難よりも従業員の退職が引き金となります。離職理由は給与だけでなく、人間関係や将来への不安、過重労働など心理的要因が大きな割合を占めます。定期的な1on1面談で不満を把握し、ハラスメント対策や業務負荷の最適化を進めることが大切です。
柔軟な働き方や休暇制度の整備も、定着率向上に効果があります。社員一人ひとりが大切にされているという実感が、長く働き続けたいと思うきっかけになるでしょう。
事業承継を計画的に進めて後継者問題を解決する
人手不足倒産を未然に防ぐためには、早期に事業承継を準備することが効果的です。
黒字でも後継者不在で廃業する企業もあり、とくに人手不足が深刻な企業は、後継者候補から敬遠されやすい傾向があります。事業承継を成功させるには、収益性の改善や業務の見える化を進め、引き継ぎやすい会社に磨き上げることが必要です。
経営者保証の整理や段階的な権限委譲は、短期間では進められない課題です。そのため、商工会議所や事業承継支援センターなどの専門機関を活用し、5〜10年単位の中長期計画として進めましょう。
必要に応じてM&Aを検討する
人手不足倒産を防ぐ最終手段として、M&Aも選択肢のひとつになるでしょう。M&Aは撤退ではなく、雇用と事業を守るための戦略的選択です。
自力での採用や立て直しが難しい場合、M&Aによるグループ入りは有効な解決策です。人材や顧客基盤を求める買い手もいるため、人手不足の業界だからこそ企業価値が評価される場合があります。
資本力や採用ノウハウを活用できれば、人手不足や資金問題が一気に改善する可能性もあります。手遅れになる前に動くことが重要であるため、企業価値が残っている段階で専門家に相談し、M&Aを選択肢のひとつとして検討しておくとよいでしょう。
以下の記事では失敗しないM&A戦略について、わかりやすく解説しています。
失敗しないM&A戦略とは?成功に導く7つのポイントを解説 | 千代田中央法律事務所
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まとめ

人手不足倒産は年々増加しており、その原因は採用難だけでなく、人件費高騰や従業員退職、後継者不在など複合化しています。
人手不足倒産を防ぐには、自社がどのようなリスクを抱えているのかを把握し、前兆が見えた段階で手を打つことが重要です。たとえば、価格への反映やDXによる生産性向上、採用手法の見直し、事業承継・M&Aなどの対策を検討しておく必要があります。
人手不足を理由に倒産しないためにも、早めに経営の構造を見直し、具体的な行動に移しましょう。
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京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

