会社の経営状況が悪化し破産という選択肢が現実味を帯びてくると、多くの経営者は今後の対応に頭を悩ませるものです。
代表者として従業員に対して何をすべきなのか、取引先など債権者の持つ破産債権がどうなるのかなど、さまざまな疑問を抱えるでしょう。
この記事では、破産を検討中の経営者の方が、破産債権に関する正確な知識を身につけ、今後の対応をスムーズにおこなうために役立つ情報を紹介します。
破産債権の基礎から財団債権との違い、債権の優先順位など、押さえておきたいポイントを解説します。会社の破産手続きや、債権の扱いについて知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
破産債権とは?
破産債権の基本的な概念と仕組みについて紹介します。
以下で詳しくみていきましょう。
破産債権の基礎
破産債権とは、破産手続において債権者が破産者から回収を求める債権のことです。
取引先企業が破産した場合、その企業に対して有している売掛金や貸付金などの請求権が破産債権にあたります。この債権は、原則として破産手続きを通じた配当によってのみ弁済を受けられます。
しかし、会社の財産状況によっては配当が全くない場合や、あったとしても債権額の一部に留まることも少なくありません。
これは、破産者の財産のうち、財団債権(※)が優先的に支払われると定められているためです。
なお、具体的な配当率は事案により大きく異なります。
※財団債権とは、裁判所の手続きを待たずに、他の借金より先に返してもらえる特別な権利(債権)のこと。
破産債権の定義
破産債権は、破産法2条5項において「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないもの」と明確に定義されています。
破産債権として認められるか否かは、主に以下3つの要素によって判断されます。
参照:破産法2条5項
要素1:破産手続開始前の原因にもとづくこと
破産手続が始まる前に発生原因があった債権であることが必須条件です。裁判所が破産手続開始決定を出す日が、時間的な区切りになります。
この日を境に、それ以前に原因があったのか、それ以後に原因ができたのかを区分します。
要素2:財産上の請求権であること
破産債権は、金銭的な価値を持つ請求権でなければなりません。具体的には、貸したお金を返してもらう権利(貸金債権)や、売った商品の代金を支払ってもらう権利(売掛金債権)などが該当します。
要素3:財団債権に該当しないもの
財団債権に分類されない債権であることも、破産債権の要素のひとつです。破産手続開始前に発生した金融機関からの借入金債権、商品販売による売掛金債権、リース料債権などが典型的な破産債権にあたります。
破産債権と認められる条件
破産債権として認められるためには、法的定義を満たすだけではなく、実際の手続きとして破産債権届出書を裁判所に提出しなければなりません。
破産債権届出書の提出期間は、破産手続開始決定から約2週間~4か月の間に定められるのが一般的です。この期間内に届出を提出しなければ、債権者は原則として配当を受ける権利を失います。
届出後は破産管財人による調査がおこなわれ、内容に問題がなければ破産債権として確定します。
破産債権と財団債権との違い
破産債権と財団債権の最大の違いは、優先順位と弁済方法にあります。
それぞれの比較を、以下の表にまとめました。
| 比較項目 | 財団債権 | 破産債権 |
|---|---|---|
| 法律上の定義 | 破産手続によらず破産財団から随時弁済を受ける債権(破産法2条7項) | 財団債権の支払後、残存財産から法定手続き(配当)により弁済を受ける債権 |
| 支払いの優先順位 | 高い。破産債権に優先して支払いを受ける(破産法151条) | 財団債権完済後、残存財産があれば支払いを受ける |
| 弁済(支払い)方法 | 破産手続の配当を待たず、破産財団から随時・個別に支払われる | 他の破産債権者と共に、債権額に応じた按分額(配当)として支払われる |
| 具体例 | ・破産管財人の報酬 ・裁判所の手続費用・破産手続開始決定前3か月間の従業員給料 ・税金、社会保険料の一部 ・その他、破産手続の遂行に必要な費用や、政策的に保護すべき特定の債権 | ・金融機関からの借入金 ・仕入先への買掛金 ・リース契約にもとづくリース料 ・上記以外で、破産手続開始前に原因がある一般的な金銭債権 |
| 回収できる可能性 | 会社に財産が残っている場合、回収できる可能性は高い | 会社財産状況によるが、一部のみ回収または、回収不能なケースが多い |
参照:破産法
財団債権は優先度の高い債権ですが、会社の財産がまったく残っていなければ、当然ながら弁済はできません。
破産債権の種類と優先順位
次に破産債権の種類と、その優先順位について紹介します。
破産債権の種類は、主に以下の4つです。
それぞれを詳しく解説します。
1. 優先的破産債権
優先的破産債権とは、破産法第98条にもとづき、一般の先取特権などの担保権や法定の優先権がある債権のことです。
この債権は、財団債権の次に優先して弁済を受けられます。
【優先的破産債権の具体例】
- 財団債権とならない租税債権(国税・地方税)
- 公課(国民健康保険料や年金保険料など)、共益費用に関する債権
- 財団債権に該当しない労働債権(給料・退職金)
- 葬式費用に関する債権
- 日用品の供給に関する債権
破産前の所得税や固定資産税のうち、財団債権の条件を満たさないものは優先的破産債権として扱われます。
2. 一般の破産債権
一般の破産債権とは、破産手続において特別な優先権を持たない標準的な債権です。
この債権は、財団債権と優先的破産債権が弁済された後に残った財産から弁済を受けることになります。
【一般の破産債権の具体例】
- 金融機関からの借入金
- 商品の売掛金や買掛金
- 未払いのサービス料
- リース料
- クレジットカード債務
破産法では特段の規定はなく、他の特別な破産債権に該当しないものとして消極的に定義されています。
3. 劣後的破産債権
劣後的破産債権は、破産法第99条第1項及び第97条にもとづいて定められた特殊な債権です。
優先的破産債権と、一般の破産債権のすべてが完全に弁済された後にのみ配当を受けられます。
破産手続開始後に発生した利息の請求権や、破産手続が開始されたあとの不履行による損害賠償や違約金の請求権などがその一例です。
4. 約定劣後破産債権
約定劣後破産債権は、債権者と債務者の間の契約によって、劣後的破産債権も含むすべての債権よりも弁済順位を劣後させることを合意した特殊な債権です。
約定劣後破産債権の代表的な例としては、劣後特約付きの社債や劣後ローンなどがあります。
劣後ローン(れつごローン)とは、会社が倒産した際などに、ほかの債権よりも返済される順位が低いことを前提に組まれるローンのことで、リスクがある分、金利が高いことが金融機関にとってのメリットです。
破産時の従業員への影響
企業が破産した際、会社側が従業員に与える影響が多くあります。従業員への主な影響には以下があげられます。
- 未払い賃金が支払えない
- 退職金が支払えない
企業が破産すると、会社は賃金や退職金の全額支払いが困難になる可能性が高いでしょう。
賃金や退職金債権は、一部が財団債権、残りが破産債権として扱われることが基本です。破産手続開始前3か月間に生じた従業員の給料請求権については優先的に支払われます。
一方で、それより前に発生した給料や退職金の一部は優先的破産債権として扱われます。
賞与については、一般的に財団債権や優先的破産債権とはならず、一般の破産債権として扱われるため、回収の優先度は低くなりがちです。
また、解雇予告手当も同様に一般の破産債権となることが多いでしょう。
これらの債権は、財団債権や他の優先的破産債権への弁済後に会社の財産が残っていなければ、支払われない可能性があります。
もし賃金や退職金がもらえなかった従業員がいた場合、セーフティーネットである「未払賃金立替払制度」を活用できます。
この制度は、企業が倒産して賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金の一部を立て替えて支払う制度です。
ただし、対象となるのは未払いの定期賃金と退職金であり、賞与や解雇予告手当は原則として対象外です。制度利用には複数の条件がありますので、事前に確認のうえ申請をおこないましょう。
会社が倒産した際の退職金については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
会社倒産で退職金なし?未払賃金立替払制度で救済されるケースや注意点を解説
破産時の社長への影響
会社が破産した際の社長(代表者)への影響についても確認しておきましょう。
破産時の社長への影響として、主に2つのポイントがあります。
以下で詳しく解説します。
1. 法人が破産しても原則社長の責任はない
会社法上、法人が破産しても、原則として社長個人が会社の債務を負担する責任はありません。これは法人格の独立性、または法人格の分離と呼ばれる原則によるものです。
この原則により、会社の債務と社長個人の債務は明確に区別され、会社が破産しても、社長個人が会社の債務を返済する法的義務は生じません。
2. 個人自己破産が避けられないケースがある
社長が会社の債務の連帯保証人となっている場合、破産した会社が抱えていた借金は、社長個人への負債に切り替わります。
たとえば会社が3千万円の借入をした状態で破産したら、連帯保証人だった社長に対して、全額返済が求められます。
連帯保証人になっている場合、会社が破産しても、その立替分の債務は社長個人のものとして残るためです。
さらに、法人税や消費税などの滞納があり、会社の財産から全額を徴収できない場合、一定の要件を満たすと社長個人が第二次納税義務者として、未納分の支払いを求められることもあります。
これらの個人的な債務の総額が、社長自身の支払い能力を大幅に超えてしまった場合、自己破産を選択せざるを得ない状況に陥ることがあります。
会社破産時の債権についてよくある質問
最後に会社破産時の債権に関する主な質問と回答を、3つ紹介します。
以下で詳しくみていきましょう。
Q. 自社の売掛金は債権と相殺できる?
A. 取引先企業が破産した場合、自社がその企業に対して売掛金を有し、かつ同企業に対して買掛債務を負っている場合、原則としてこれらを相殺できます。
この相殺権は破産手続において非常に強力な権利であり、実質的に担保権と同様の効果を持ちます。
ただし、破産者の支払不能を知った後に破産者に対して債務を負担した場合や、破産手続開始後に破産者に対して債務を負担した場合などは、相殺が禁止・制限されることがあります。
具体的な状況に応じて対応が異なるため、弁護士など専門家への相談が不可欠です。
Q. 会社破産で税金はどうなる?
A. 租税等の請求権で、破産手続開始当時に納期限が到来していないものや、納期限から1年を経過していないものは財団債権となります。
一方、それより古い税金債権は優先的破産債権として扱われ、財団債権の次に優先して支払われることになります。
会社の財産が少なく税金を全額支払えずに破産手続きが完了し、会社が法人格を失って消滅した場合、原則として以降の支払い義務はありません。
Q. 債権者とのやり取りは自分たちで進めていいの?
A. 会社破産時の債権者とのやり取りは、自分たちだけで進めるのではなく、弁護士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
破産手続きは法的手続きであり、適切な対応をしないと、後々トラブルになる可能性があるためです。
破産申立てを決断した時点で、まずは弁護士に依頼しましょう。弁護士名で受任通知を債権者に送付することで、直接の取り立てや催促をストップすることが可能です。
まとめ
この記事では、破産を検討する経営者が知っておくべき破産債権の基礎知識や注意点などを解説しました。
正確な情報を事前に得ることで、手続きに対する漠然とした不安を軽減し、より冷静な判断が可能になります。
会社の破産は苦渋の決断ですが、法にもとづき債務を整理し、再起を図るための重要なプロセスです。
本記事の情報が、経営者の方にとって次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

