会社の解散・清算という複雑な法的手続きにおいて、その中心的な役割を担うのが代表清算人です。代表清算人は、会社の最後を法的に正しく終結させる重責を負います。
経営者は、代表清算人の選任方法から法的責任まで、知らなければならないことが多岐にわたります。とくに、手続きの順序を誤ると法務局で登記が受理されないといった実務的なトラブルにも直結するため注意が必要です。
本記事では、代表清算人の基本や具体的な職務などを網羅的に解説します。清算手続きをトラブルなく完了させ、法的なリスクを回避するために、ぜひ把握しておきましょう。
代表清算人とは?

会社の解散・清算手続きにおいて中心的な役割を担う代表清算人について、その法的な位置づけと役割の全体像を紹介します。
会社をたたむ際の手続きについて、詳しくは以下の記事もあわせて参考にしてください。
会社の閉鎖とは?手続きの流れや関係者への対応、費用などを解説 | 千代田中央法律事務所
代表清算人の定義
代表清算人とは、会社の解散後にはじまる清算手続きにおいて、会社を対外的に代表し清算業務全体を指揮・執行する最高責任者のことです。
会社が解散すると、それまでの取締役や代表取締役は原則として退任し、清算事務をおこなう清算人がその役割を引き継ぎます。
代表清算人は、その清算人の中から選ばれたリーダーであり、会社の顔として法的な代表権限を持ちます。
多くの中小企業では、解散前の代表取締役がそのまま代表清算人に就任するケース(法定清算人)が一般的です。
具体的な業務としては、債権者への通知、財産の売却契約、債務の弁済をはじめとする、清算に関わる法律行為を会社を代表しておこないます。
清算人との違い
清算人とは、解散した会社の清算事務(財産調査、債務弁済など)を実行する機関、またはそのメンバー全員を指す言葉です。
一方、代表清算人とは、その清算人たちの中から選ばれ、対外的に会社を代表する権限を集中させた特定の人物を指します。
会社法第483条第2項によれば、清算人が複数いる場合、原則として全員が会社を代表する権限を持つ各自代表がルールとされています。
この場合、指揮系統が混乱するおそれがあるため、特定の1名(または複数名)を代表清算人として選任し、対外的な窓口と責任者を一本化するのが一般的です。
ただし、中小企業で多く見られる清算人がひとりだけというケースでは、そのひとりが法律上、会社を代表することになります。
清算人は自動的に代表清算人としての役割も兼ねることになり、登記事項証明書(登記簿)にもその旨が記載されます。
清算人については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
清算人とは?役割や業務内容、選任の仕方などを解説 | 千代田中央法律事務所
代表清算人は誰がなるの?

会社の解散・清算手続きにおいて中心的な役割を担う代表清算人は、以下いずれかの方法で決定されます。
自社の状況に合わせて適切な選任方法を選べるよう、法的根拠と実務上の注意点を提示します。
定款によって定められた人
会社が解散する際の清算人の選任方法として、定款にあらかじめ定めておく方法が挙げられます。
具体的には、「当会社が解散したときは、〇〇氏を清算人とする」といった規定を設けておくものです。
これにより、解散が決議された際に改めて株主総会で選任決議をおこなう手間を省けます。
ただし、定款に特定の個人名を記載すると、その人が死亡や長期不在となった場合に定款変更の手続きが必要となるため、実務上でこのような運用はあまり多くないでしょう。
法定清算人
定款に清算人の定めがなく、かつ解散を決議した株主総会でも清算人を選任しなかった場合、会社法第478条第1項第1号にもとづき、解散時の取締役が自動的に法定清算人に就任します。
この場合、元々会社を代表していた代表取締役が、清算人となった後も会社を代表する権限を持つ代表清算人として扱われることが一般的です。
多くの中小企業では、手続きの簡便さから、この法定清算人のケースが多く見られる傾向にあります。
しかし、手続きが簡便であるからといって、その役割や責任まで軽くなるわけではありません。債権者への公平な弁済や残余財産の分配など、取締役時代とは全く異なる職務が求められることを理解しておく必要があります。
株主総会で選任された人
解散を決議する株主総会において、同時に清算人および代表清算人を選任する方法もあります。
会社法第478条第1項第3号にもとづき、解散の特別決議と同時に、清算人選任の普通決議をおこなうことができます。
この方法は、株主の意思が直接反映される点がメリットです。法定清算人となる人物が明らかであっても、あえて株主総会で代表清算人の選任を決議し、その経緯を議事録に残すことで、選任後の報酬の妥当性や責任範囲に関する紛争を未然に防ぐことにつながります。
選任日から2週間以内の登記申請を怠ると、代表清算人個人に過料が科されるリスクがあるため、期限厳守が求められます。
裁判所に選任された人
上記で述べた方法で清算人となる者がいない場合や、利害関係者間で対立があり、清算人の選任が難航する場合、株主や債権者の申立てにもとづき裁判所が清算人を選任できます。
具体例として、長期間登記が更新されずみなし解散の状態にある会社で、代表清算人が死亡し後任者の選任が事実上不可能となっているケースなどが該当します。
裁判所が事案の複雑性や財産状況を考慮し、中立公正な立場である弁護士などを清算人に選任するケースが多く見られます。
代表清算人になれない人

ここでは、代表清算人として選任されることが法的に認められていない欠格事由を持つ人物について解説します。
選任時の無効リスクや後の法的責任のリスクを防ぐため、代表清算人になれない人を把握しておきましょう。
当該株式会社の監査役
解散した当該清算株式会社の監査役は、その会社の代表清算人を含む清算人を兼任することが、会社法上禁止されています。
監査役の職務は、清算人の清算事務の執行が、法令や定款に従って適正におこなわれているかを監査することにあります。
もし監査役が清算人を兼任してしまうと、自分自身の業務を自分で監査するという、著しい利益相反の関係が生じます。これでは、会社のガバナンスが機能不全に陥り、債権者や株主の利益が損なわれるリスクが高まるためです。
清算人を選任する際は、解散前の役職が監査役であったかどうかを必ず確認し、適格性を欠く人物を選任しないよう細心の注意を払うべきです。
その他、欠格事由に該当する人
成年被後見人や被保佐人、監査役以外にも、代表清算人になることができない欠格事由が会社法や関連法令で定められています。
会社の財産管理と対外的な信用を一手に担うため、高い法令遵守意識と社会的信用が求められることから、以下の条件に該当する人物は清算人になれません。
- 法令違反による刑の執行が終了していない者(会社法などの法令に違反し、懲役刑などの刑罰を受け、その執行を終えてから一定期間を経過していない者)
- 破産手続き中で復権を得ていない者
選任を検討する際は、対象者が欠格事由に該当しないか、司法書士や弁護士などの専門家に確認し、選任時の法的リスクを回避しましょう。
代表清算人の主な職務

代表清算人に就任した後、具体的にどのような業務をどのような順序で進めるべきか、清算手続きの主要な流れを解説します。
それぞれを詳しくみていきましょう。
現務の結了
会社の解散日時点で完了していない現務の結了を速やかに進行するのが、代表清算人の初期の職務です。
具体的には、進行中の契約の履行または解約、事務所の明け渡し、従業員との雇用契約の終了などが該当します。
この現務の結了と並行して、代表清算人は就任後遅滞なく、解散日時点の財産調査をおこない、その結果にもとづき財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を得る必要があります。
債権の回収
代表清算人は、会社の債務弁済の原資を確保するため、売掛金や貸付金など、会社が有する全ての債権の取立をおこないます。
回収可能な債権を放置した場合、善管注意義務違反として責任を問われるリスクがありますので、把握しておきましょう。
任意での回収が難しい場合は、代表清算人の権限にもとづき、訴訟などの法的手段を講じることも職務に含まれます。
債務の返済
代表清算人は解散後遅滞なく、最低2ヶ月以上の官報公告と、会社が把握している個別の債権者への催告をおこないます。
法律で定められたこの公告期間中は、原則として債務の弁済が禁止されており、この期間が満了した後に会社が負っているすべての債務を公平に弁済します。ただし、裁判所の許可を得れば、税金や公共料金など一定の債務は期間中でも支払うことが可能です。
この弁済を進めるなかで、とくに注意すべきなのが債務超過の疑いです。資産をすべて現金化しても債務全額を支払いきれない疑いが生じた場合、代表清算人は直ちに通常の清算手続きを中止し、特別清算または破産手続きの開始を裁判所に申し立てる法的な義務があります。
残った財産の分配
会社のすべての債務を弁済し、なお会社に財産が残っている場合、持ち株数に応じて余剰財産を公平に分配します。
この分配金のうち、当初の資本金等の額を超える部分については、税法上みなし配当として源泉徴収が必要となる場合があるため注意しましょう。
この税務処理は専門知識を要するため、税理士など専門家へ相談することがおすすめです。
清算結了の登記申請
残余財産の分配が完了したら、代表清算人は清算期間中の収入や支出、残余財産の額などを詳細に記載した決算報告書を作成し株主総会の承認を得る必要があります。
この決算報告の承認は、債権者保護手続き(少なくとも2か月)や弁済・分配が終わってから行う手続きです。この登記が完了することで、会社の登記記録は閉鎖され完全に消滅します。
ただし、登記閉鎖後も、代表清算人には会社の帳簿などの資料を10年間保存する義務が残ります。
代表清算人の義務と責任は?

代表清算人が負うべき法的な義務と、それを怠った場合に発生する任務懈怠責任について解説します。
会社に対する責任だけでなく、債権者などの第三者に対する責任についても明確にしておきましょう。
善管注意義務
代表清算人は清算株式会社の最高責任者として、善良な管理者の注意義務と、法令や定款などを遵守し会社のために職務を遂行する忠実義務を負います。
取締役と同様に、その者の職業や社会的地位などに応じて、取引上一般的に要求される程度の高度な注意を払うことが会社法により義務付けられています。
たとえば、回収可能な会社の売掛金を放置して時効で消滅させてしまう、あるいは会社の資産を客観的な根拠なく市場価格より著しく安い価格で売却する行為などは、避けなければなりません。
この善管注意義務に違反する行為と見なされる可能性があるため、注意しましょう。
株主総会への報告義務
代表清算人は、就任後遅滞なく作成した財産目録と貸借対照表を株主総会に提出して承認を得る必要があります。
また、残余財産の分配まで含めたすべての清算事務が終了した際には、清算期間中の決算報告書を作成し株主総会の承認を得ます。
これらの報告義務を履行し、議事録を適切に作成・保存することは、清算人自身の職務執行の透明性を確保するうえで非常に大切です。
任務を怠った場合の賠償責任
代表清算人が上記の義務を怠り、会社や第三者に損害を与えた場合、任務懈怠責任として損害賠償を請求される可能性があります。
この責任は、清算株式会社に対する賠償責任だけでなく、債権者などの第三者に対する直接的な賠償責任を負うケースもあり得ます。
債権者がいることを知りながら個別催告を怠った場合、または弁済禁止期間中に特定の債権者にだけ優先的に弁済した場合などがその一例です。
債権者対応においては債権者平等の原則を厳格に守り、清算事務に関する虚偽記載は決しておこなわないことが、責任を回避するための防御策となります。
代表清算人の報酬はいくら?

代表清算人の報酬に関して、その目安や決め方を解説します。
それぞれを詳しくみていきましょう。
報酬額の目安
代表清算人の報酬について、会社法には具体的な基準や公的な相場は定められていません。
報酬額は清算業務の期間、会社の財産規模、債権者や株主の人数といった業務の複雑性などを総合的に勘案して決定されるのが一般的です。
清算業務の難易度は会社によって大きく異なり、短期で完了するケースもあれば、資産の換価や法的処理で長期化するケースもあるためです。
報酬水準を検討するうえでは、清算業務を外部の専門家(司法書士や税理士)に依頼した場合の報酬額が一つの参考となります。
法人が破産する際に弁護士に依頼した場合、具体的な費用は案件内容によるものの、50万円以上の予算がかかるケースがあるでしょう。
報酬額の決め方
代表清算人の報酬は、原則として定款の定めまたは株主総会の決議によって、具体的な金額や算定方法を明確に決定しなければなりません。
この手続きを経ることで、報酬額の妥当性について後日争いが生じるリスクや、税務上の損金算入に関する問題を未然に防ぐことにつながります。
具体的には、「清算人A氏に対し、清算結了までの期間、月額〇〇万円を支給する」といった具体的な金額または算定方法を普通決議で決定し、その内容を議事録に明確に残しておくべきです。
これらの記録を適切に保管することで、他の株主から妥当性を問われるリスクを回避できるでしょう。
報酬額の支払い時期
報酬の支払い時期は株主総会決議にもとづきますが、税務上の取り扱いに細心の注意が必要です。
清算期間中に毎月支払われる報酬は役員報酬として、清算結了時にまとめて支払う金銭は退職金(退職給与)として扱われる可能性があり、それぞれ税制上の優遇措置や会社側の損金算入要件が大きく異なるためです。
退職金として扱う場合、代表清算人個人の所得税の課税が優遇され、清算期間中に毎月定額を支払う場合は役員報酬として源泉徴収・年末調整の対象となります。
支払い形態と時期については、税理士に相談しながら適切な方法を選択し、その根拠を株主総会議事録として残しましょう。
代表清算人を定めるメリット

清算人が複数いる場合に、あえて代表清算人を定めることによって得られる実務上のメリットを解説します。
それぞれを詳しくみていきましょう。
意思決定の迅速化
代表権を持つ者が複数いると、指揮命令系統が乱れやすく、実務上の混乱を招くおそれがあります。
そこで代表清算人を定めることで、清算業務に関する最終的な意思決定権者が明確になり、清算事務の進行を迅速化できる可能性があります。
迅速な判断が求められる場面で最終判断を代表清算人に委ねることで、全員の合意形成にかかる時間を短縮し、タイムリーな対応が可能になるでしょう。
対外的な窓口の一本化
代表清算人を定めることで、指揮命令系統を一本化でき、債権者や金融機関、行政機関など外部との交渉窓口も対応しやすくなります。
清算人が複数いると、それぞれが外部と異なる情報を伝えるリスクがありますが、窓口を集約することで、債権者に対して公平かつ誠実なコミュニケーションが可能となります。
責任の所在の明確化
代表清算人を定めることで、清算業務全体の最終責任者が誰であるかが内外に明らかになり、ガバナンス(企業統治)強化にもつながります。
責任の所在を明確にすることは、代表清算人自身が職務を適正に遂行する動機付けとなり、清算手続きの適法性・透明性を高める効果が期待できるでしょう。
代表清算人を定めるデメリット

前章で解説したメリットの裏側として、代表清算人に代表権を集中させることによって生じうる、内部的なガバナンス上のリスクや、清算事務の透明性低下の可能性を解説します。
メリットだけでなく、デメリットについても理解したうえで代表清算人の選出をおこないましょう。
権限集中のリスク
代表清算人に代表権を集中させると、清算株式会社の財産を扱う権限がひとりの人物に集中し、不正や独断による財産毀損のリスクが高まる可能性があります。
清算人の職務は、会社の財産を債権者や株主へ公平に分配するという公益性の高い責任を伴うものです。
代表者の判断ミスや悪意ある行動が、会社に重大な損害を与える危険性があるため、権限が集中することは監視の目を弱める可能性があります。
独断的な業務執行
意思決定が迅速化する半面、代表清算人が他の清算人や専門家(弁護士、税理士)の意見を軽視し、独断で業務を執行する傾向が強まる可能性も指摘されます。
とくに法定清算人として元代表取締役が就任した場合、取締役時代の感覚で業務を処理し、専門家への相談を怠るケースが考えられます。
代表清算人を選任する場合であっても、重要な意思決定の場では、他の清算人が監視することでトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
他清算人の牽制低下
代表清算人が存在する結果、他の清算人が責任は代表者が負うと考え、清算事務全般に対する監視(牽制)機能が低下する可能性があります。
代表権が特定のひとりに集中していると、他の清算人の責任感が希薄になり、代表清算人の責任を他人事にしやすくなるためです。
清算人が複数いる場合は、代表清算人を定めることで指揮系統を明確にしつつも、他の清算人にも代表清算人の職務執行に対する監視義務があることを自覚させることが肝心です。
まとめ

代表清算人は、解散した会社の清算手続きにおいて法的な代表権を持ち、業務を執行する最高責任者です。清算人が一人の場合はその者が、複数いる場合は選任された者が就任します。
代表清算人の職務は、現務の結了や債権回収など多岐にわたります。また、これらの職務を遂行するうえで、善管注意義務や報告義務を負い、怠れば損害賠償責任を問われる可能性があることを理解しておきましょう。
代表清算人を定めることには、意思決定の迅速化や窓口の一本化といったメリットがある一方、権限集中による独断のリスクも伴います。
会社の清算という法的な手続きを円滑に進めるためには、必要に応じて弁護士など専門家の助言を仰ぎながら、適正に業務を遂行することが求められます。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

