自己破産は、裁判所の許可を得て借金の支払義務を免除してもらう、人生を再スタートさせるための法的な救済制度です。
しかし、誰でも無条件に利用できるわけではなく、法律で定められたいくつかの要件を満たす必要があります。
この記事では、自己破産が認められるための具体的な条件について解説したうえで、条件にあわない場合の方法についても紹介しています。
自分が自己破産の条件に当てはまるかどうか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
自己破産に必要な条件
自己破産を申し立てるための4つの条件について、具体的にみていきましょう。
これらの条件をすべて満たすことが、自己破産を検討するうえでの最初の一歩です。
1. 支払不能の状態であること
自己破産を申し立てるための根幹となる条件は、支払不能の状態にあることです。
破産法第2条11項では、支払不能の定義について以下のように明記されています。
債務者が、支払能力を欠くために、その満期にある債務を、一般的かつ継続的に弁済することができない客観的状態にあること
簡単にいえば、ご自身の収入や財産では、すべての借金を継続的に返済していくことが客観的に不可能であると裁判所に認められなければなりません。
つまり、単に「お金がない」「借金が払えない」といった主観的な感覚ではなく、客観的にそれが認められる状態でなければ、自己破産の条件には当てはまりません。
2. 免責の対象となる借金があること
破産法では、社会的・政策的な観点から、特定の種類の債務を「非免責債権」として免責の対象外と定めています。
非免責債権には、以下のようなものがあります。
- 税金、国民健康保険料、年金保険料などの公租公課
- 悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権
- 故意または重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為にもとづく損害賠償請求権
- 養育費や婚姻費用など、扶養義務者として負担すべき費用
- 罰金、科料、追徴金など
借金の大部分がこの非免責債権で占められている場合、多大な労力をかけて自己破産をしても、経済的な再生という目的を達成できない可能性が高いでしょう。
3. 免責不許可事由に該当しないこと
借金の内容だけでなく、その借金を作った経緯や、破産申立てに至るまでの行動も、免責を判断するうえで厳しく審査されます。
破産法第252条第1項では、著しく不誠実な債務者を安易に救済しないために、免責を認めない一定のケースを「免責不許可事由」として定めています。
これに該当すると、原則として借金の免除は認められません。
4. 前回の免責許可決定から7年以上経過していること
過去に自己破産で免責を受けたことがある場合、前回の免責許可決定が確定した日から7年以上が経過していることが、再び免責を受けるための条件です。
これは、自己破産制度の濫用を防ぎ、債務者に責任ある経済活動を促す目的で設けられたルールです。
ただし、この7年という期間は絶対的なものではなく、事情によっては例外が認められる可能性も残されています。
やむを得ず再び多額の債務を負ってしまった場合などは、裁判所の裁量による裁量免責が認められることがあります。
自己破産で免責が認められない「免責不許可事由」の具体例
ここでは、前の章で触れた免責不許可事由の具体例を紹介します。
- 浪費や賭博などで借金を増やした
- 財産隠しや不当な名義変更・贈与などをおこなった
- 特定の貸主にだけ優先して返済した
- 収入や返済能力を偽って、新たな借り入れをした
- 裁判所や管財人に対し、虚偽の説明や書類提出をした
- 財産に関する重要書類を破棄・隠蔽した
これらの行為に心当たりがある場合、自己破産の手続きにおいて慎重な対応が求められます。
浪費や賭博などで借金を増やした
収入や資産に見合わない買い物やサービスにお金を使い込む浪費は、免責が認められない理由のひとつです。
同様にパチンコや競馬といった賭博行為で著しく財産を減少させたり、多額の借金を抱えたりした場合も、免責不許可事由に該当します。
原則として、自己破産制度は、誠実に生活していたにもかかわらず不運にも経済的に破綻してしまった人を救済することを目的としています。
そのため、自ら招いた無責任な原因で借金を作った場合にまで、無条件で免責を認めることは制度の趣旨に反すると考えられているからです。
財産隠しや不当な名義変更・贈与などをおこなった
自己破産の前に、財産を隠したり意図的にその価値を下げたりする行為は、破産詐欺とも呼ばれる悪質な免責不許可事由に該当します。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 破産申立ての直前に、預貯金を家族名義の口座へ移動させる
- 所有する自動車や不動産の名義を、実態は変わらないまま親族などに変更する
- 高額な解約返戻金が見込まれる生命保険の存在を申告しない
- 価値のある美術品などを、不当に安い価格で友人に売却したように見せかける
これらの行為は、免責が不許可になるだけでなく、詐欺破産罪という刑事罰の対象となるおそれもあるため、決しておこなわないようにしましょう。
特定の貸主にだけ優先して返済した
特定の債権者だけを優先して返済をおこなう行為を、偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼びます。
これは債権者平等の原則に反することから、免責不許可事由とみなされるため、絶対におこなわないようにしましょう。
もし特定の債権者に迷惑をかけたくないという事情がある場合は、自己破産ではなく、交渉相手を選べる任意整理が適している可能性があります。
すでに対応に心当たりがある場合は、その事実を隠さずに弁護士へ打ち明けて、対応を仰ぎましょう。
収入や返済能力を偽って、新たな借り入れをした
返済の見込みがないことを自覚しながら、収入や他の借入状況について嘘の申告をして新たな融資を受ける行為は「詐術による信用取引」とされ、免責不許可事由に該当します。
とくに、破産申立ての1年以内におこなわれたこのような行為は、計画的なものとして厳しく調査されます。
自己破産を検討しはじめた後は、原則として新たな借り入れをおこなうことは避けましょう。
返済が厳しいと感じたならば、安易な追加借入に頼るのではなく、一刻も早く専門家に相談すべきです。
裁判所や管財人に対し、虚偽の説明や書類提出をした
自己破産の手続きにおいては、裁判所および破産管財人に対する誠実な協力姿勢が求められます。
破産管財人とは、債務者の財産調査や現金化、債権者への配当といった業務を担う弁護士のことです。
この管財人や裁判所からの調査に対し、以下のような非協力的な態度をとることは免責不許可事由となります。
- 財産や借金の状況に関する質問に対し、嘘の説明をする
- 家計の状況をよく見せるために、事実と異なる内容の家計簿を作成・提出する
- 財産調査に必要な書類の提出を拒否したり、妨害したりする
このような行為は、債務者の反省や更生の意欲が欠如しているとみなされ、免責の判断に深刻な悪影響を及ぼします。
財産に関する重要書類を破棄・隠蔽した
とくに個人事業主や会社経営者の方が自己破産する場合に注意が必要なのが、事業や財産に関する帳簿や書類の扱いです。
これらの書類は、財産状況を正確に把握するための客観的な証拠として、破産手続きにおいて重要な役割を果たします。
具体例には、以下のような行為があげられます。
- 売上をごまかして記載した会計帳簿を破棄する
- 事業用の資金を個人的に流用した記録が残る預金通帳を隠す
- 取引先との契約書や請求書などを意図的に提出しない
自己破産を検討する際は、過去の帳簿や税務申告書類などをすべて保全し、ありのままの状態で弁護士に提示することが不可欠です。
自己破産の条件を満たしていない場合の特別措置「裁量免責」とは
自己破産の条件を満たしていない人でも、ケースによっては免責が認められることがあります。
ここでは、裁量免責という特別な制度について解説します。
免責不許可事由に該当している人でも、すぐにあきらめず、可能性を探ってみましょう。
裁量免責の概要
裁量免責とは、免責不許可事由に該当する行為があったとしても、裁判所が諸般の事情を考慮し、その裁量によって免責を許可できるという制度です。
つまり、浪費やギャンブル、偏頗弁済といった問題行為の事実があるからといって、機械的に不許可となるわけではありません。
裁判所が債務者の事情や手続き中の態度などを総合的に判断し、「この債務者を更生させるのが社会にとって有益だ」と認めれば、免責のチャンスが与えられるのです。
免責不許可事由が問題となりつつも、実際の現場では多くのケースで最終的には裁量免責によって救済されている事実があります。
裁量免責の目的
この裁量免責制度が設けられている根本的な目的は、破産法が掲げる債務者の経済生活の再生の機会の確保という理念を実現することにあります。
破産制度は債権者の権利を守るだけでなく、一度失敗したけれども誠実に再起を目指す債務者に対して、再起の機会を与えることも同じく重要な目的としています。
形式的なルールだけで判断を下すのではなく、債務者の人間性や更生の可能性といった実質的な側面も考慮に入れることで、より人道的で公正な解決を目指しているのです。
裁量免責が認められる基準
裁判所は、主に以下の4つの要素を総合的に考慮して判断します。
以下の表は、判断のポイントをまとめたものです。
| 評価要素 | 裁量免責が認められやすいケース |
|---|---|
| 問題行為の性質・程度 | 一時的な判断ミスであり、借金全体に占める割合が小さい |
| 債務者の反省態度 | 心からの反省の意を示し、具体的な生活再建計画を立てている |
| 手続きへの協力姿勢 | すべての調査に誠実に協力し、正直に情報を提供している |
| 経済的更生の可能性 | 家計管理や依存症治療など、具体的な更生努力を実践している |
主に裁判所が重視するのは「この債務者になら、もう一度チャンスを与えても大丈夫だろう」という信頼感です。
弁護士と密に連携し、誠実な姿勢で手続きに臨むことが、裁量免責を得るための鍵となります。
自己破産ができない場合の対処方法
自己破産の条件を満たさない場合は、以下の方法を検討してみるのもひとつの手段です。
自分にあう方法が不明な場合は弁護士など、専門家の判断を仰ぎましょう。
任意整理を検討する
任意整理とは、将来発生する利息のカットや、返済期間の延長を合意することで毎月の返済負担を軽減する方法です。
任意整理は、裁判所を介さずに弁護士や司法書士が代理人となって債権者と直接交渉をおこないます。
あくまで当事者間の話し合いであるため、手続きの柔軟性が高いのが特徴です。
任意整理のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | ・交渉する相手を選べる(保証人のいる借金などを除ける) ・裁判所を通さないため、自己破産に比べて手続きが簡単にできる ・財産を処分する必要がない |
| デメリット | ・元本は減らないため、大幅な借金減額は期待できない ・安定した収入がないと利用は難しい ・債権者が交渉に応じない可能性がある ・信用情報機関に事故情報が登録される(ブラックリストへの掲載) |
任意整理は、自己破産とは異なり、安定した収入があることが前提条件となります。
借金の総額が比較的少なく、毎月の返済額を減らせば返済を続けられそうな場合は、任意整理という選択肢も検討できます。
個人再生を検討する
個人再生とは、借金の元本そのものを大幅に圧縮してもらい、その減額された借金を原則3年(最大5年)で分割返済していく法的手続きです。
個人再生は裁判所の介入が必要なため、任意整理に比べて時間やコストがかかるケースが多くなります。
任意整理では返済が困難な多額の借金を抱えている場合に、有力な選択肢となります。
個人再生のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | ・借金の元本をおよそ1/5~1/10に減額できる ・住宅ローン特則を利用し、持ち家を残せる ・借金の原因(浪費・ギャンブルなど)を問われない |
| デメリット | ・手続きが複雑で、解決までに時間がかかる ・安定した収入がないと利用は難しい ・国の機関紙である官報に氏名・住所が掲載される ・信用情報機関に事故情報が登録される(ブラックリストへの掲載) |
任意整理と同様で、以後も返済していくことが前提であるため、継続した安定的な収入がある場合のみこの制度の利用を検討できます。
自己破産の条件に関するよくある質問
最後に、自己破産を検討する際に多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
具体的な影響を知ったうえで、制度の利用を検討しましょう。
Q1. 自己破産できる年収はいくらですか?
A. 自己破産に、年収の上限や下限といった基準はありません。判断基準として重要なのは、収入と支出、そして借金総額のバランスです。
たとえば年収が1,000万円あっても、年収を大幅に上回る3,000万円の借金を抱え、返済が明らかに困難な状況であれば、支払不能と認められる可能性があります。
逆に年収が300万円でも、借金が100万円程度であり、返済可能な状況と判断されれば支払不能とは認められないこともあります。
ご自身の状況で判断に迷う場合は、弁護士などの専門家による客観的な診断を受けることが得策です。
Q2. 自己破産をすると、家族にどのような影響がありますか?
A. 家族が保証人になっていない限り、法的な返済義務が家族に移ることはありません。ただし、間接的な影響はいくつか考えられます。
同居する家族がいる場合、以下のような影響が及ぶ可能性があります。
| 影響の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 保証人への影響 | 家族が保証人の場合、債権者から残債務の一括返済を請求される |
| 財産への影響 | ・本人名義の家や車は処分の対象となる ・共有名義の不動産も、本人の持分が処分の対象となり、結果的に売却に至る可能性がある |
| 生活面での影響 | ・本人名義のクレジットカードに紐づく家族カードは利用できなくなる ・子どもが奨学金を借りる際に保証人になれない |
| 手続き上の影響 | 裁判所に同居家族の収入証明書などを提出する必要があり、手続きの事実を家族に知られることになる |
とくに家族が保証人になっているケースは、その家族に深刻な影響が及ぶことを把握しておきましょう。
家族への影響を最小限に抑えるためにも、隠し立てするのではなく、事前に状況を正直に説明しておくことが大切です。
理解と協力を得ることが、円滑な手続きと生活再建のためには不可欠です。
Q3. 自己破産をすると、クレジットカードは使えなくなりますか?
A. 自己破産をすると、手続き後約5~7年間は、ご自身名義でのクレジットカードの作成や利用、新たなローンの契約はできなくなります。
これは、自己破産の事実が信用情報機関に事故情報として登録されるためで、いわゆるブラックリストに載る状態を指します。
キャッシュレス決済が主流の現代において不便は否めませんが、この期間に現金中心の生活習慣を身につけることが、将来の安定した家計につながるでしょう。
まとめ
本記事では、自己破産を申し立てるための基本条件や免責が認められない具体的なケース、そして代替案となる任意整理や個人再生の特徴について解説しました。
これらの法的な知識は、単なる情報ではなく、自身の現状を客観的に分析し、将来の生活を再建するための最適な道筋を見つけ出すための羅針盤となります。
経済的な困難に直面した際は、ひとりで抱え込まずに第三者に相談することもひとつの手段です。
専門家への相談も視野に入れながら、個々の状況に適した解決策を選択し、新たなスタートを切るための一歩を踏み出してください。

京都大学経済学部卒業、同大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
千代田中央法律事務所を開設し、スタートアップの資本政策・資金調達支援、M&Aによるエグジット・成長戦略の専門職支援と法人破産手続き、事業再生手続きによる再生案件を取り扱う。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動経験あり。

